2018 年 16 巻 1 号 p. 85-93
スマートフォンの普及によって現地から被害状況を位置情報と写真付きで伝達、共有することが容易になった。写真、テキストに加えて緯度経度が現地から送信されて共有されるスマートフォンを用いた被害報告が、災害対応に有効であることは疑う余地がない。しかし、自治体や河川管理者等の災害対応におけるスマートフォンの有効性が、実験による科学的データによって証明された例はない。筆者は複数の基礎自治体の防災情報システムならびにこれと情報連携できるスマートフォン・アプリを開発し、職員や消防団による現地巡視実務のために提供している。そこで本研究では、スマートフォン・アプリが自治体の災害対応業務の効率化に寄与する効果について、筆者が開発した防災情報システム、スマートフォン・アプリを既に導入している山梨県甲府市、市川三郷町、南アルプス市の参加のもと、河川巡視実験、防災訓練(被害報告実験)を実施し、時間、業務ステップの削減効果を検証することとした。河川巡視実験では、アプリを用いて1~2分で被害登録が可能なこと、関係機関との連携を含む自治体の災害対応に有効であること、ならびにスマートフォン・アプリのシームレスな情報共有が可能な運用環境が重要であることを示した。一方、被害報告実験では、2つの同種ならびに同規模の住宅倒壊の状況付与に対して、地域防災職員がスマートフォン・アプリを用いるケースと用いないケースを設定し、被害確認から災害対策本部による担当部局への指示に至る時間ならびに作業プロセス数の削減について分析し、スマートフォン・アプリ導入による災害対応業務の効率化を明らかにした。