2020 年 18 巻 1 号 p. 35-45
近年洪水被害が毎年のように頻発しており、特に逃げ遅れによる人的被害が数多く発生している。本研究では、住民や防災関係者による効果的・効率的な防災・減災活動に資することを目的にして、近年進展が著しい仮想現実(Virtual Reality: VR)技術を用いて、イメージ映像にて洪水時の状況を疑似体験できる「洪水疑似体験アプリ」を開発した。そして、住民が本アプリにより洪水を疑似体験することで、洪水災害に対する意識や減災行動意欲に変化が生じるかをアンケートにより検証した。その結果、洪水被害を経験していない被験者ほど、本アプリによる洪水疑似体験において洪水が実際に来るように、また洪水に対する怖さをより感じることが分かった。あわせて、洪水災害を経験していない被験者ほど、本アプリによる洪水疑似体験後に洪水災害への心配度合いが増加した。さらに、洪水疑似体験後に洪水への心配度合いが増加したグループの方が、洪水ハザードマップの閲覧意向が高くなったことが分かった。これらにより、VR技術を用いた洪水疑似体験は、特に洪水被害経験がない人に対して洪水への意識啓発に有効であり、効果的な減災行動意欲向上に大いに貢献できる可能性が示された。