本稿は、公共交通機関を利用した広域避難計画を研究の対象とする。広域避難計画は、国や地方で精力的な取組がなされているが、「広域避難においては、課題があまりにも大きく複雑に絡み合っているため、どこから手をつけて良いか分からないという事態に陥りがちである(内閣府, 2021)」ため、実効性のある具体的な広域避難計画の策定を進めるのが難しい現実がある。このような状況を踏まえ、今後の広域避難計画検討の参考に資することを目的として、世田谷区(以下「区」という。)の公共交通機関の利用を前提とした多摩川洪水からの域外広域的避難計画を研究事例として、具体的に検証する。この計画は、他の市区町村へ行政界を越えた避難を行わず、周辺自治体との調整が必要ないため、広域避難計画とは定義されないが、計画対象区域は、東京都に存在する 2 大水系のうちの一つである多摩川本川左岸に位置し、区域内全域が浸水するため、域外への広域的避難が必要になる立地となっている。また、避難対象人口が 5 万人を超え、区内の広域に配置された水害時避難所に避難する当該計画は、広域避難に匹敵する規模と内容を有する計画である。広域避難計画が、具体的策定段階までは至っていないことが多いため、広域避難計画の内容を具体的に分析・評価した研究が進んでいない現状の中で、本研究は、感染症まん延条件下において、区の水害時避難計画の具体的な分析・評価を行うものである。