学校メンタルヘルス
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資料論文
感情の自己理解を深めるための心理教育プログラムの開発―対人関係に苦手意識を持つ中学生を対象とした小グループでの実践―
岡田 佳子高野 光司塚原 望
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2015 年 18 巻 2 号 p. 132-146

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抄録

【問題と目的】本研究では,対人関係に困難を抱えている中学生を対象としたソーシャルスキルトレーニングの一環として,感情の自己理解を深めることを目的とした心理教育プログラムを開発することを目的とした。

【方法】8つの下位目標を設定し,下位目標と対応させて全部で5回のプログラムを作成した。プログラムの参加者は,対人関係に苦手意識を持つ中学生10名(男子5名,女子5名)であった。10名の中には専門機関で高機能自閉症,アスペルガー症候群やAD/HDなどの診断を受けている者も含まれていた。プログラムは男女別々に実施された。プログラムの効果を検討するために,情動知能,心理的ストレス反応の測定およびふりかえり用紙を用いた自由記述の収集が行われた。

【結果】情動知能では,対応のあるt検定の結果「私は何か起こった時に,自分がどうしてそんな気持ちになったのか,たいてい理由がわかる」,「私は,自分自身の気持ちをコントロールするのが上手だ」の2項目において実施前に比べて実施後の方が得点が有意に高くなっており,中程度の効果量が示された。また,心理的ストレス反応では,対応ありの1要因分散分析の結果,「怒り」と「不安」でプログラム1回目に比べてプログラム4回目のストレス得点が低減している傾向があることが示された。

【考察】(1)「プログラムによって感情の自己理解が深まる効果」,およびプログラムの派生的な効果としての(2)「他者の感情理解に及ぼす影響」,(3)「感情のコントロールに及ぼす影響」,(4)「ストレス反応の低減に及ぼす影響」の4点を検討した。(1)(3)(4)については,プログラムの効果を積極的に示すには至らなかったが,部分的に支持する結果が得られた。(2)については,感情の自己理解プログラム単体では他者の感情理解に対しては効果が得られないことが示唆された。これより,本プログラムで目標とした感情の自己理解の力を他者理解や対人場面でのスキルに生かしていくためには,自己の感情理解をベースに他者理解やソーシャルスキルのプログラムを組み合わせて実施していく必要があることが示された。一方,本研究の課題として,本研究は参加者が少ないため結果の解釈は慎重にならなくてはならず,今後も実践を繰り返してプログラムの効果検討と改善を行う必要があるだろう。

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© 2015 日本学校メンタルヘルス学会
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