2005 年 21 巻 1 号 p. 7-14
20年前にシステム農学会が設立した年は、筆者は駆け出しの学者のたまごとして転職した年であった。当時京都大学教授であった岸根卓郎先生が初代会長であったため、当初は拙い研究成果でも大会に発表していた記憶がある。しかし、専門分野が徐々に農業から遠ざかったために、システム農学会へは何の貢献もしてこなかった。幸いにしてシステム農学は異種学問の融合により成り立つ学問であることから、これまで培ってきた他分野(リスクマネジメント)の知見が、そろそろシステム農学の発展に貢献できるのではないかと考えて引き受けたのが今回のシンポジウムであった。ようやく農業分野にもリスクマネジメントを視野に入れた農政改革の動きが芽生え始めたように思われるが、それが奏功するにはまだまだ遠い道のりである。この論文は、一昨年から昨年にかけて発生した高病原性鳥インフルエンザの事件をリスクマネジメントの視点から分析することによって、農業経営における危機を少しでも予防、回避、軽減することを目指したものである。結果として明らかになったことは、①農業者自身がリスク認識をもった経営を心がけることが肝要であること、②緊急時の対応が有効に機能するためには、行政は農業経営者と普段から信頼関係を築く努力が必要であること、③農業経営のリスク管理に保険的要素を取り入れた制度の確立が必要であることである。要するに、農業経営にも適切なリスクマネジメントが必要であるということである。なお、この論文の表題は「有効なリスクマネジメントを伴わなければ‘安全だから安心してください’というメッセージが返って問題解決を困難にする実情」をもとに、実質的リスクマネジメントの重要性を強調する意味でつけたものである。