システム農学
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21 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
招待論文
  • 枡田 隆一
    2005 年 21 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

    2004(平成16)年2月27日、京都府船井郡丹波町の農場において高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)の感染が確認された(同年3月5日、同町内で新たな感染が確認)。また、上記農場から、兵庫県内の食鳥処理場に出荷された廃用鶏について、同型のウイルスの感染が確認された。本県においては、同28日、直ちに知事を本部長とする「兵庫県高病原性鳥インフルエンザ対策本部」を設置。京都府の発生農場から30km以内の養鶏農家等に対する鶏、鶏卵等の移動制限を発動するなど、徹底した防疫措置を講じて感染拡大の防止と県民の安全・安心の確保に努めた。

  • 別府 庸子
    2005 年 21 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

    20年前にシステム農学会が設立した年は、筆者は駆け出しの学者のたまごとして転職した年であった。当時京都大学教授であった岸根卓郎先生が初代会長であったため、当初は拙い研究成果でも大会に発表していた記憶がある。しかし、専門分野が徐々に農業から遠ざかったために、システム農学会へは何の貢献もしてこなかった。幸いにしてシステム農学は異種学問の融合により成り立つ学問であることから、これまで培ってきた他分野(リスクマネジメント)の知見が、そろそろシステム農学の発展に貢献できるのではないかと考えて引き受けたのが今回のシンポジウムであった。ようやく農業分野にもリスクマネジメントを視野に入れた農政改革の動きが芽生え始めたように思われるが、それが奏功するにはまだまだ遠い道のりである。この論文は、一昨年から昨年にかけて発生した高病原性鳥インフルエンザの事件をリスクマネジメントの視点から分析することによって、農業経営における危機を少しでも予防、回避、軽減することを目指したものである。結果として明らかになったことは、①農業者自身がリスク認識をもった経営を心がけることが肝要であること、②緊急時の対応が有効に機能するためには、行政は農業経営者と普段から信頼関係を築く努力が必要であること、③農業経営のリスク管理に保険的要素を取り入れた制度の確立が必要であることである。要するに、農業経営にも適切なリスクマネジメントが必要であるということである。なお、この論文の表題は「有効なリスクマネジメントを伴わなければ‘安全だから安心してください’というメッセージが返って問題解決を困難にする実情」をもとに、実質的リスクマネジメントの重要性を強調する意味でつけたものである。

研究論文
  • 長命 洋佑, 中川 悦光, 小島 英紀, 広岡 博之
    2005 年 21 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    京都府八木町の北地区にある「八木バイオエコロジーセンター」は、家畜廃棄物(ふん尿)を利用して堆肥や液肥を作り出し、またメタンガスから電気を発生させる家畜ふん尿処理システムである。本研究では、八木町の住民を対象にバイオエコロジーセンターに対するアンケート調査を行い、住民の評価がどのような要因によって影響されているのかについて明らかにすることを目的とした。アンケート調査は、八木町立中学校の保護者とバイオエコロジーセンターが立地している自治会において実施した。本研究に用いた回答者の内訳は男性74名、女性173名であった。3つの質問項目に対して主成分分析を行った結果、5つの主成分因子(いわゆる指数)が析出された。最初の質問項目からは「バイオエコロジーセンターへの総合評価指数」、2つめの質問項目からは「堆肥利用農産物評価指数」、3つめの質問項目からは「環境行動意識」、「ごみ分別行動指数」、「再利用行動指数」が析出された。本研究では、「バイオエコロジーセンターへの総合評価指数」を目的変数とし、それに対する他の要因の影響を最小2乗分散分析法によって調べた。分析の結果、職業、八木町への愛着の効果および居住地と八木町への愛着の交互作用の効果で有意性が認められた。八木町に対して愛着のある住民ほどバイオエコロジーセンターに対して高い評価をしている傾向がみられ、その中でもバイオエコロジーセンターが立地している北地区の住民ほどその傾向が強いことが明らかになった。さらに、バイオエコロジーセンターの機能について認知している住民ほどバイオエコロジーセンターをより高く評価している傾向の強いことが明らかになった。
  • ―石狩川中上流域における田植日と環境要因の面的比較―
    坂本 利弘, 岡本 勝男, 川島 博之
    2005 年 21 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究では、多時期RADARSAT画像を解析することによって、水稲田植日の空間分布を推定する手法開発を試みた。また、本研究で対象とした石狩川中上流域において、土壌タイプや平均気温の分布と田植日の分布が空間的に関連しているかどうかを面的に比較調査した。水稲田植日は、水田の湛水・非湛水の時系列変化を調べることによって求めた。また、水稲作付面積の推定も行い、市町別の誤差範囲は、-11.5%~+25.7%で,平方平均誤差(RMSE)は、1.5 km2であった。水稲田植日の空間分布図を作成し、土壌、気温の空間分布図と面的比較した結果、田植日の空間分布と気温の空間分布との間に明確な関連性を見出すことはできなかった。また、土壌図との比較の結果、グライ土・泥炭土が分布する地域は、その他の土壌が分布する地域に比べて、田植日が遅い傾向にあることが分かった。
  • 劉 晨, 王 勤学, 一ノ瀬 俊明, 大坪 国順
    2005 年 21 巻 1 号 p. 33-46
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究では人口移動の全体像を把握するための最初の一歩として、現時点で唯一利用可能となる1990人口センサスの1%オリジナルデータに基づき、市場経済導入初期の1985-1990年における人口移動について、県レベルでの空間分布及び要因分析を行った。その結果、以下の事実が明らかとなった。①高い経済発展を遂げた直轄市の市区、各省の省都や改革・開放が進んだ珠江デルタ地域が周辺農村地域の人口を吸収していた、②省内移動は省間移動より多く、総移動者数の7割弱を占めた。省内移動の目的地は主に各省の省都、大都市、改革・開放が進んだ地域、鉱区などであり、省間移動の目的地は主に北京市、天津市、上海市の市区及び付近地域、珠江デルタ地域であった、③非戸籍移動(戸籍を移さない転居)者数は戸籍移動(戸籍の移動を伴う転居)者数より少ないものの、移動者数の半数弱を占めた。非戸籍移動の約8割は農村部からの転出であったが、戸籍移動の約半数は都市部からの転出であった。戸籍移動者の約7割は大学や専門学校へ進学する学生や上級行政単位への転勤者、就職者及びその親族の随伴移動であったが、非戸籍移動者の半数は出稼ぎのため、経済発展の高い地域、あるいは経済発展見込みの高い地域で紡織業や加工業などの工業に従事する者であった、④統計解析の結果は、諸社会・経済指標のうち地域の経済規模が総流入数と最も高い相関を示しており、経済力が人々を引き付ける最も重要な要因となっていた。また、省間戸籍移動は経済規模と、省間非戸籍移動は経済規模の他に海外投資と、省内非戸籍移動は生活水準及び産業の構成と有意な相関があった、⑤全国の県に対して流入数と県内GDPの回帰分析を行い、中国全県に対する流入数を推測する式を提案した。
  • 渡辺 修, 大谷 一郎, 大原 源二
    2005 年 21 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    地球温暖化防止に対応するため、植物由来のバイオマス資源の利用が求められているが、植物資源が豊富に存在すると考えられる畦畔等の小規模で分散する土地の植生バイオマス量を把握した研究はほとんどない。兵庫県日高町の910 haを撮影した解像度20 cmの高空間分解能データを用い、これまでリモートセンシングの対象となっていない小規模で地域に分散する水田に隣接する畦畔や道路法面の植生バイオマス量を推定した。現地調査は7月下旬から8月上旬にかけて、対象地区の畦畔及び農地に隣接した道路法面で行った。現地ではチガヤの優先する畦畔が高い頻度で確認された。40カ所のサンプリングポイントの解析から、NDVI(Nomalized Difference Vegetation Index)値と地上部植生バイオマス量の間に高い正の相関がみられ(R2=0.622, p<0.01)、NDVI値から推定した合計バイオマス量は26 DWt/haであった。畦畔等のバイオマスを年間3-4回の回収すると仮定すると、7.8-10.4 DWt/(ha yr)の生産量があり、草地NPP(Net Primary Productivity)の9.7 DWt/(ha yr)に匹敵する。高空間分解能データは小規模な土地の植生観測を高い精度で行うツールとして優れており、これまで推定できなかった畦畔等のバイオマス量の推定を可能にした。
  • 鈴木 研二, 山本 由紀代, 安藤 益夫
    2005 年 21 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    東北タイにおける小規模溜池の水文立地に関する評価の方法を提示した。はじめに、研究対象地域内の選定対象農家に対して溜池の利用の実態に関する聞き取りを行い、溜池が多目的で用いられていることを確認した。中でも養魚への利用が重視されており、そのためには年間を通じて水深を1m以上に保つ必要がある。次に、集水面積の異なる条件下で、典型的な諸元を持つ溜池の水位変動に関するモデルシミュレーションを行った。この計算から、複数年での溜池の年間最低水位と集水面積との関係を得た。集水面積比(Rca: 集水面積 / 溜池表面積)が5より小さい場合、5年間での年間最低水位が1m以下となり、通年での養魚が困難となる。Rcaが9を越える場合、乾季であっても約500m3が利用可能となる。衛星データを用いて各溜池の集水面積を決定し、これらの値を閾値として各溜池を3段階(A: Rca≧9、最低水深≧1.75m、B: Rca 5–9、最低水深<1.75m、C: Rca<5、最低水深<1m)に評価することとした。この方法を対象地域内の180の溜池に適用したところ、約半数がA、10%がB、40%がCと評価された。これらの結果から、立地選択に起因して有効に貯留できなかった水量は、概算で全ての溜池の貯留容量の20%を越えることが示された。
  • 張 福平, 魏 永芬, 秋山 侃, 西條 好迪, 河合 洋人
    2005 年 21 巻 1 号 p. 65-74
    発行日: 2005/04/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    これまで、竹林の地下部を大規模に調査した例はほとんどない。本研究では、モウソウチク-ハチク混生竹林において、10 m×10 mの調査区を対象とした発堀調査を実施した。高圧水で表土を流去した後、デジタル写真画像を撮影した。撮影した写真画像の左右または上下の辺の長さが同一になるように微調整した後、目視判読により落ち葉、石、竹および樹木の切株などを消去した。その後、補正した写真画像を対象に、輝度強度に基づく画像処理により、竹の地下茎と地下茎の細根の写真画像面積をそれぞれ算出した。地下部画像による面積とこれら地下茎面積と細根の現存量データとの回帰式 (地下茎:r=0.91、細根:r=0.81)を導き、全調査区の地下茎および地下茎の細根の現存量を推定した。一方、切株部の現存量は幹の胸高直径と切株現存量との相関関係(r=0.98)から求めた。また、地下に埋まった残存株の現存量は、細根生え際直径と切株現存量との相関関係(r=0.97)から推定した。この結果、調査域における地下茎、地下茎の細根、切株および残存株の現存量はそれぞれ15.67、9.51、7.55および2.45 t ha-1となり、地下部の総現存量は35.17 t ha-1となった。さらに、相対生長式によって竹稈の胸高直径から算出した調査域内の地上部現存量は23.31 t ha-1と推定され、地上部と地下部現存量の比(T/R比)は0.66と見積もられた。2 m四方に分画した25小区の地下部現存量は9.71~17.83 kg/4 m2に分布し、竹林地下部現存量を推定するためには16~36 m2程度のサンプリングが必要と考えられる。
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