抄録
近年、わが国でも、規模拡大、高泌乳の集約型酪農に対して規模縮小、低泌乳の低投入型酪農も注目されるようになった。低投入型酪農には、飼料自給率上昇や経営収支改善だけではなく、「環境に優しい酪農」という面での期待もある。北海道根釧地域で行われているマイペース酪農は、粗飼料中心の生乳生産を行い、生産よりも暮らしを重視する酪農であり、低投入型酪農の1つとして知られている。本稿では、マイペース酪農を低投入型酪農の事例として、LCA (Life Cycle Assessment)を用いて集約型酪農から低投入型酪農への転換による環境汚染削減効果を分析した。本稿は、LCA を適用して複数の環境問題を定量的に把握することで、マイペース酪農が「環境に優しい酪農」であるかという点の解明を試みたことに大きな特徴がある。本稿で分析対象とした事例農家は、1993 年からマイペース酪農の取り組みを始めた代表的酪農経営である。本稿のLCAでは、機能単位を4%脂肪補正乳量1 tとし、評価する環境影響カテゴリーをエネルギー消費量、地球温暖化、酸性化、富栄養化、地下水水質、表面水水質とした。分析結果から、地下水水質を除いた全環境影響カテゴリーで環境汚染削減が確認された。また、機能単位当たり環境汚染削減効果は、エネルギー消費量、表面水水質、酸性化、富栄養化、地球温暖化の順に大きいことも確認された。以上の分析結果からみると、低投入型酪農としてのマイペース酪農は、集約型酪農に対して環境汚染削減という点で有利であり、「環境に優しい酪農」であることが示唆された。