システム農学
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21 巻, 2 号
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研究論文
  • 北向き斜面上の樹林域周辺農地を対象として
    佐藤 恵一, 畑中 健一郎, 高橋 英博, 佐々木 華織, 菅谷 博
    2005 年 21 巻 2 号 p. 89-98
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    北向き斜面上の農地の中には、秋~春季に直達日射が著しく遮蔽される農地が存在する。そうした農地における日陰領域の大部分が、農地に接する樹林域によって形成される事例があることを、モデルを用いた定量的解析によって明らかにした。 この解析過程では、まず、GISで作成された5mメッシュ標高値と数値地籍情報を用いて、日陰領域の分布を推定するための手法を開発した。地形によって生じる日陰については、水田一筆内の標高が均一となるように補正して推定した。また、樹林域によって生じる日陰については、数値地籍情報を用いて樹林域の水平分布をGIS 上に描き、樹林域に該当するメッシュ標高値に樹高の測定値や仮定値を加えることによって推定した。開発した手法を用いて、高知県の中山間地域に立地する花き栽培農家の農地を対象として日陰領域の面積を推定し、写真画像による測定結果と比較し、誤差が生じる理由を明らかにした。この検証を踏まえた解析結果から、解析対象とした農地では、秋や冬の太陽高度が最も高くなる時間帯には、日陰領域の大部分が農地に接する樹林域のみによって形成されていることを明らかにした。また、樹高の値を部分的に0mと仮定して日陰領域分布の推定を行うことにより、樹林域の一部を伐採した場合の日陰領域変化を予測するシミュレーションが可能になることを示した。
  • 北海道根釧地域のマイペース酪農 を事例として
    増田 清敬, 髙橋 義文, 山本 康貴, 出村 克彦
    2005 年 21 巻 2 号 p. 99-112
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    近年、わが国でも、規模拡大、高泌乳の集約型酪農に対して規模縮小、低泌乳の低投入型酪農も注目されるようになった。低投入型酪農には、飼料自給率上昇や経営収支改善だけではなく、「環境に優しい酪農」という面での期待もある。北海道根釧地域で行われているマイペース酪農は、粗飼料中心の生乳生産を行い、生産よりも暮らしを重視する酪農であり、低投入型酪農の1つとして知られている。本稿では、マイペース酪農を低投入型酪農の事例として、LCA (Life Cycle Assessment)を用いて集約型酪農から低投入型酪農への転換による環境汚染削減効果を分析した。本稿は、LCA を適用して複数の環境問題を定量的に把握することで、マイペース酪農が「環境に優しい酪農」であるかという点の解明を試みたことに大きな特徴がある。本稿で分析対象とした事例農家は、1993 年からマイペース酪農の取り組みを始めた代表的酪農経営である。本稿のLCAでは、機能単位を4%脂肪補正乳量1 tとし、評価する環境影響カテゴリーをエネルギー消費量、地球温暖化、酸性化、富栄養化、地下水水質、表面水水質とした。分析結果から、地下水水質を除いた全環境影響カテゴリーで環境汚染削減が確認された。また、機能単位当たり環境汚染削減効果は、エネルギー消費量、表面水水質、酸性化、富栄養化、地球温暖化の順に大きいことも確認された。以上の分析結果からみると、低投入型酪農としてのマイペース酪農は、集約型酪農に対して環境汚染削減という点で有利であり、「環境に優しい酪農」であることが示唆された。
短報
  • 島 武男, 田中 良和, 向井 章恵, 中 達雄
    2005 年 21 巻 2 号 p. 113-123
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    近年の環境への意識の高まりを受け、2002年に土地改良法が改正された。その中で、生態系に配慮した農業水路の整備が求められている。そのような農業水路の整備を行う場合、まず農業水路の生態環境の適切な評価が必要となる。本研究では、農業水路を対象とし、魚類の生態環境を評価する手法を開発することを目的とした。そのために、農業水路を一連のシステムとしてとらえ、連結性から限定要因を評価するための評価図と、さらに農業水路を構成要素に分けて構成要素ごとに流速、材質等の特性を評価し、これらの農業水路の評価結果と魚類の捕獲調査結果を合わせて総合的に評価するための評価図を作成し、魚類に対する農業水路の生態環境の影響について検討した。流域の下流域と上流域では、気候や地形の条件が異なるため生息している魚種も異なる。また、水路システムの性格も異なるため、上下流の比較も重要となる。そこで、下流域の水路システムとして熊本県緑川流域の丹生宮地区水路を、上流域の水路システムとして通潤水路を選んだ。評価図より、水路システムの系としての評価は、自然河川との、および水路システム内でのネットワークの分断が重要な因子となることが分かった。また構成要素としての局所的な評価では流速と落差が限定要因であった。また、上中流域と下流域の水路システムを比較すると、低平地では主にポンプ等の水利施設が、中山間地では落差がネットワークの分断要因となっており、中山間地と低平地では異なる対策が必要となろう。魚類に対する農業水路生態環境に配慮した計画・設計を行う場合、まず農業水路を水路システムとして鳥瞰し、ネットワークの連結性、ハビタットの空間配置に配慮し、その後、各種魚道、魚巣ブロック、捨て石工法等の局所的な施工法を選択する手法が重要になることが示唆された。
  • VU THANH Lan Anh, 戸田 任重
    2005 年 21 巻 2 号 p. 125-131
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    ベトナムにおける最近40年間の農業の発展は、人口増加とともに、地下水の硝酸汚染や湖沼・貯水池の富栄養化などの深刻な環境問題を引き起こしてきた。しかし、窒素負荷量の全国規模での解析などはほとんど行われていない。本研究では、FAOのデータベースに加えて、ベトナム国内の行政データを用い、1961年から2001年までの40年間の同国の、農耕地、畜産排出物、人間排出物、および森林に由来する窒素負荷量を全国規模で解析した。窒素負荷は、窒素収支に基づいて算出した。2010年の窒素負荷量についても、ベトナム農務省のデータにもとづいて推定した。過去40年間で、窒素負荷総量は、171千トン・年-1 から1,191千トン・年-1 へと7倍に増加した。化学肥料使用量の急増を反映して、農耕地からの窒素負荷量の増加が顕著である(2001年で851千トン・年-1)。人間由来の窒素負荷量は約3倍(85千トン・年-1 から265千トン・年-1)、畜産排出物量は約5倍(30 千トン・年-1 から145 千トン・年-1)に増加した。森林由来の窒素負荷は相対的に小さい(2001年で71千トン・年-1)。大きな窒素負荷は、紅河デルタやメコンデルタなどの農業が活発な地域でみられた。次の10年間で、農耕地や畜産排出物からの窒素負荷がさらに増加し、2010年の窒素負荷総量は1,790千トン・年-1 になると予測された。上述した両デルタでは深刻な硝酸汚染が引き起こされる可能性がある。ただし、その他の地方では、人口増加は緩やかであり、農業も活発ではないので、窒素負荷量は低レベルにとどまると考えられる。
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