ベトナムにおける最近40年間の農業の発展は、人口増加とともに、地下水の硝酸汚染や湖沼・貯水池の富栄養化などの深刻な環境問題を引き起こしてきた。しかし、窒素負荷量の全国規模での解析などはほとんど行われていない。本研究では、FAOのデータベースに加えて、ベトナム国内の行政データを用い、1961年から2001年までの40年間の同国の、農耕地、畜産排出物、人間排出物、および森林に由来する窒素負荷量を全国規模で解析した。窒素負荷は、窒素収支に基づいて算出した。2010年の窒素負荷量についても、ベトナム農務省のデータにもとづいて推定した。過去40年間で、窒素負荷総量は、171千トン・年
-1 から1,191千トン・年
-1 へと7倍に増加した。化学肥料使用量の急増を反映して、農耕地からの窒素負荷量の増加が顕著である(2001年で851千トン・年
-1)。人間由来の窒素負荷量は約3倍(85千トン・年
-1 から265千トン・年
-1)、畜産排出物量は約5倍(30 千トン・年
-1 から145 千トン・年
-1)に増加した。森林由来の窒素負荷は相対的に小さい(2001年で71千トン・年
-1)。大きな窒素負荷は、紅河デルタやメコンデルタなどの農業が活発な地域でみられた。次の10年間で、農耕地や畜産排出物からの窒素負荷がさらに増加し、2010年の窒素負荷総量は1,790千トン・年
-1 になると予測された。上述した両デルタでは深刻な硝酸汚染が引き起こされる可能性がある。ただし、その他の地方では、人口増加は緩やかであり、農業も活発ではないので、窒素負荷量は低レベルにとどまると考えられる。
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