システム農学
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研究論文
阿蘇草原の火入れおよび放牧による植生量の変化に対する衛星画像解析
安中 勇大大石 風人安在 弘樹三輪 雅史熊谷 元広岡 博之家入 誠二
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2015 年 31 巻 4 号 p. 117-125

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抄録
阿蘇山周辺に広がる草原は古くから火入れ(野焼き)と放牧によって維持されてきたが、後継者不足による放牧頭数と火入れ面積の減少により草原の維持が危ぶまれている。そこで本研究では、1999 年から2014 年の衛星画像を利用し阿蘇の草原の植生量を広域かつ長期にわたり解析し、草原の維持に放牧と火入れが与える影響を定量的に示すことを試みた。熊本県阿蘇市および近隣6 町村からなる170 の牧野を分析対象とし、火入れと放牧の実施状況に関するデータを収集した。また、1999 年から2014 年において、各年火入れ前の時期(時期Ⅰ)、火入れ後の放牧開始時期(時期Ⅱ)、放牧終了後の時期(時期Ⅲ)と3 時期の衛星画像を解析に用いて、各画像につき正規化植生指標(Normalized Difference Vegetation Index: NDVI)を牧野ごとに平均して算出した。その後、3 時期それぞれのNDVI および2 時期間のNDVI の差に対する年次と火入れ、放牧、火入れと放牧の交互作用の影響を調査した。その結果、全ての分析に対して年次と火入れの効果は有意であった(P<0.01)。火入れを実施した牧野でNDVIが低かったことから、火入れは草原の森林遷移を防ぐ効果があることが示された。また、放牧の効果については時期Ⅱおよび時期Ⅲと時期Ⅱの差(時期Ⅲ-Ⅱ)に対してのみ有意であった(P<0.05)。時期Ⅱでは前年放牧を実施した牧野のNDVI が有意に高くなっており、放牧牛が排泄する糞尿により土壌が肥沃となり植物の生長が促進されることが示唆された。また、時期Ⅲ-Ⅱでは放牧を実施した牧野のNDVI が有意に減少したことから、ウシの採食行動により植物量が少なくなることが示された。時期Ⅲでは交互作用も有意に認められ(P<0.05)、放牧を実施した場合では火入れの効果が有意となる一方、放牧を実施しなかった場合では火入れの効果は見られなかった。以上より、火入れは草地の森林遷移を防ぐ効果があり、放牧は火入れとの組み合わせにより森林遷移を抑制する一方、土壌を肥沃にして植物の生長を促進させる効果がある可能性が示唆された。
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© 2015 システム農学会
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