同じ月でも舟の進む方向により異なって見えるように,ある取引の会計処理に関する判断も立場を異にする経営者,金融庁及び監査人の間で異なり得る。しかし,上場会社の財務報告に話を絞ると,これらの判断主体が区々に判断しているだけでは投資家保護という金融商品取引法の目的が十分に達成されない懸念がある。本稿で取り上げるビックカメラ(及び同社の元会長)の課徴金事案では,正にこれと似たような事態が生じた。同社の行った不動産流動化取引に関する各判断主体の適正性を巡る判断は真っ向から対立した。適用すべき会計基準,直ちに違法性を帯びない実体的裁量行動といったいわば本事案の特性を考察しながら,投資家保護の実現に向けてイニシアティブをとるべき監査人に焦点を当て,ことに事後的には解決困難な実体的裁量行動を未然に防止するために監査人は如何なる判断姿勢をとるべきかについて検討する。