2021 年 72 巻 3 号 p. 132-137
甲状軟骨形成術I型(TP I)では,声帯を内方移動させるために人工材料を挿入する。その晩期合併症として人工材料逸脱の報告がある。今回われわれはTP I施行後にゴアテックスが下咽頭腔内へ逸脱した症例を2例経験したので報告する。症例1は69歳男性。食道癌術後の声帯麻痺に対して披裂軟骨内転術とTP Iを施行した。術後2年後に嗄声の増悪を認め追加でTP Iを施行した。術後5年後,咽喉頭違和感を感じ受診した。下咽頭梨状陥凹から下咽頭腔内に逸脱するゴアテックスを認め,全身麻酔下で経口的に摘出した。症例2は67歳男性。挿管性声帯麻痺に対してTP Iを施行した。術後6カ月目に下咽頭梨状陥凹にゴアテックスが透見された。術後8カ月目にゴアテックスの突出が進行したため,術後11カ月目に全身麻酔下で経口的摘出を行った。TP Iの原法では窓の軟骨板と内軟骨膜は保存するのが原則であるが,後方強調のため内軟骨膜をこえて甲状披裂筋や披裂軟骨そのものを内方移動や回転させることもある。本症例は2例とも後方強調のため内軟骨膜をこえて挿入した。TP Iにおいて内軟骨膜をこえて人工材料を挿入する際には,晩期合併症である人工材料内腔逸脱の危険性を念頭に置くべきであると考えられた。