抄録
鍼灸刺激により局所と遠隔部の血流が増加するメカニズムは、上脊髄反射が関与するとされてきた.しかし、筆者らの予備実験では、上脊髄反射の関与だけでは説明できない事象が観察された.血管拡張に一酸化窒素が関与することと,一酸化窒素は血中に拡散し,ヘモグロビンと結合することから,鍼刺激によって発生した一酸化窒素が血液で運ばれ、遠隔部で血管拡張を引き起こすという仮説を立てた.本研究では,ヒトを対象に指尖容積脈波計を用いて経皮酸素飽和度(SpO2)と心拍数(HR)を,また血流スコープを用いて血管径を測定することにより,一酸化窒素の存在とそれによ
る血管拡張現象の検証実験をおこなった.その結果,鍼刺激部位と測定部位との距離が近いほど,鍼刺激から血管拡張が生じるまでの時間が短かった.このことから,鍼刺激により発生した一酸化窒素が,血中に拡散し,ヘモグロビンと結合し,末梢血管に運搬され,遠隔部末梢血管拡張に寄与していることが推定できる.