デンプンの老化速度が,もろみ経過や酒質に及ぼす影響を検討するため,清酒小仕込み試験を行った。米はDORFT法によりデンプンの老化速度が評価された山田錦を使用し,総米10gの仕込みを多数用意し,ボーメ,全糖濃度およびエタノール濃度の分析には小仕込みの一つを上槽して使用した。もろみの初期物性は,酵母なしで48時間経過させたもろみの粘度で評価した。その結果,老化速度の遅い山田錦は,もろみ中期以降において炭酸ガス発生量,エタノール濃度および全糖濃度が高くなり,DORFT法がもろみ経過や得られる製成酒の酒質の予測に有効であることが分かった。一方,老化速度の速い山田錦は,最高ボーメや最高全糖濃度が老化の遅い山田錦よりも高く,もろみ初期の粘度が低かった。もろみ初期において,全糖濃度やもろみの流動性はアミロース:アミロペクチン比が顕著に影響していると考えられた。本研究により,気象条件の違いがもろみ中の米デンプンの酵素消化性に及ぼす影響は,もろみの初期と後期で異なることを明らかにした。つまり,もろみの前半では,アミロペクチンの老化速度の違いよりも,アミロペクチン:アミロース比の違いの影響が現れ,中期以降はアミロペクチンの老化速度の影響が顕著になると推定された。