日本醸造協会誌
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中国式低塩固体発酵法による醤油の品質について
一般分析による評価
曹 小紅加藤 博
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キーワード: 低塩固体発酵法, 醤油, 品質
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1993 年 88 巻 10 号 p. 811-817

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抄録

中国の低塩固体発酵法によって醸造された醤油の品質はあまり良くないといわれている。本報では, この方法を用いて12%食塩水を添加したものと日本の醤油醸造方法を考慮して食塩濃度の影響を見るため食塩水22%を添加した諸味を試醸し, 日本の市販こいくち醤油と天津の市販醤油を対照として一般分析値から醤油の品質を比較した。
諸味に12%食塩水を添加した試醸醤油の総窒素量は, 平均1.3%, 22%食塩水添加では平均1.24%で, この醸造方法による中国醤油の規格の二級品に相当した。天津の市販醤油では0.94%で三級品の品質であったが, 日本の市販こいくち醤油では1.58%で日本農林規格の特級に相当した。ホルモール窒素については, 12%食塩水添加では1.1%, 22%食塩水添加では0.99%, 天津の市販醤油では0.81%であったのに対して, 日本の市販こいくち醤油では1.29%程度であったっ
L-グルタミン酸の含有量は12%食塩水添加では722mg/100ml, 22%食塩水添加では638mg/100ml, 天津の市販醤油は451mg/100mlであったが, 日本の市販こいくち醤油の場合では1, 143mg/100m1という結果であった。この醸造法で得られた醤油の品質が良くない原因の一つはグルタミン酸量が低いことであると思われた。直接還元糖に関しては, 12%食塩添加では2.3%, 22%食塩添加では2.49%, 天津の市販醤油では1.2%であったが, 日本の市販こいくち醤油では2.38%であった。
エタノールを定量分析した結果, 試料問のバラツキが大きかったが, 22%食塩添加の場合よりも12%食塩添加試醸醤油の方が多く, 平均13.95mg/100m1であった。天津の市販醤油も同様にバラツキがあり, 平均10.53mg/100mlであった。日本の市販こいくち醤油では1, 420mg/100mlと多く検出されたが, 原材料にエタノールが添加されていたためであろう。
発酵諸味中の微生物を調べて見ると酵母菌や乳酸菌が検出されず, 分離された菌が主としてBacillus属細菌であったことから, この低塩固体発酵法で試醸された醤油の品質が劣る原因の一つとしてBacillus属細菌が関与していると思われることが指摘された。
なお, 本研究の概要は平成4年度本学会大会で報告した。
最後に, アミノ酸の分析, エタノール等の分析にご協力をいただいた千葉大学真核微生物研究センターの三上嚢助教授および田口英昭博士に深謝申し上げます。

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