熱傷
Online ISSN : 2435-1571
Print ISSN : 0285-113X
最新号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • -北海道大学病院における10年間の経験-
    村尾 尚規, 北條 正洋, 三浦 隆洋, 石川 耕資, 前田 拓, 山尾 健, 藤田 宗純, 舟山 恵美, 山本 有平
    2025 年 51 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2025/03/15
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル 認証あり

     【目的】われわれの施設では2010年4月から広範囲熱傷に対する自家培養表皮の使用を開始した. 自家培養表皮の使用開始から10年以上が経過し, 自家培養表皮の導入が広範囲熱傷患者の予後にもたらす影響, 移植方法の変遷, 問題点について検討した.
     【方法】自家培養表皮導入以降の10年間に導入前の10年間を加えた2000年4月から2020年3月までに, 当院へ搬送された深達性Ⅱ度熱傷およびⅢ度熱傷の受傷面積が体表面積の30%以上の症例を対象とした. 患者の年齢, 性別, 受傷面積, 熱傷指数 (以下BI) , 熱傷予後指数 (以下PBI), 自家培養表皮移植の有無, 転帰について検討し, 自家培養表皮導入前後の治療成績を比較した.さらに自家培養表皮導入以降の症例では, 移植床の状態, 移植方法について検討を加えた.
     【結果】対象となった症例は28例 (自家培養表皮導入前11例, 導入後17例) であった. 自家培養表皮導入後の死亡例の受傷面積, BI, PBIの値は導入前の死亡例の値と比較して有意に高かった. 全期間中の生存例では死亡例と比較して自家培養表皮移植を実施した症例が有意に多かった. 自家培養表皮導入後の症例17例中15例で自家培養表皮シートの作成を行ったが, 培養待機中に死亡した3例および自家培養表皮移植後に死亡した3例はいずれもBI 60以上またはPBI 110以上の症例であった. 自家培養表皮導入後当初は, 同種皮膚移植による真皮再構築のあとの自家培養表皮単独移植をおもに行っていたが, その後は真皮再構築を行わずに自家培養表皮移植時に自家分層植皮を併用する方法を行っている.
     【結論】われわれの施設では, 自家培養表皮移植が広範囲熱傷患者の生命予後を改善し治療成績を向上させていると考えられる. BI 60以上またはPBI 110以上の症例に自家培養表皮移植をいかに効果的に適応していくかが現在の課題である.

  • 吉野 匠, 岩瀬 史明, 松本  学, 柳沢 政彦, 跡部 かおり
    2025 年 51 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2025/03/15
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル 認証あり

     【背景】手術中の体温低下が輸血需要や創部感染, 心血管合併症などを増加させると報告されているものの, 熱傷手術での言及は少ない.また体温低下にいたるリスク因子についても, 熱傷分野における報告は限られたものしか見受けられない.今回われわれは, 当センターの治療成績をもとに術後体温低下のリスク因子を検討したため報告する.
     【方法】2014年4月から2023年12月までに手術室で手術を行った患者を対象とした.評価項目は性別, 年齢, 入院から手術までの日数, 手術内容(焼痂切除術のみか, 焼痂切除+分層植皮術か), 手術時の露出面積, 手術時間, 手術中の総輸液量・輸血投与量, 手術前後の体温などとした.手術前後の体温変化-1.5℃を境に2群に分けて各項目を比較し, 術後体温低下にいたる因子の検索とスコアリングを行った.
     【結果】対象となった患者群は90名で, 男性60.0%, 年齢70歳, total body surface area 12%, burn index 8.5, prognostic burn index 81.5, 死亡率28.9%であった (性別, 死亡率以外中央値) 期間中に行った手術159件のうち150件を検討対象とし, 41件 (27.3%) で-1.5℃より大きな術後体温低下を認めた.体温低下群は有意に露出面積が大きく (体温低下群vs体温非低下群=27.0 vs 19.3%, p<0.01) , 手術時間が長く (2.5 vs 2.0時間, p<0.01) , 術中輸液量が多く (2.1 vs 1.4l, p<0.01) , 輸血量も多かった (赤血球液4.0 vs 0単位, p<0.01, 新鮮凍結血漿2.0 vs 0単位, p<0.01) . 単変量解析では露出面積 (Odds比0.937, p<0.01) , 手術時間 (Odds比0.636, p 0.018) , 術中輸液量 (Odds比0.555, p<0.01) が術後体温低下のリスク因子として抽出され, 各項目のカットオフ値は23.75%, 1.85時間, 1.84lであった.露出面積25%, 手術時間2時間, 術中輸液量2lいずれかを満たす項目数ごとに術後体温低下にいたった割合を求めたところ, 0項目: 6.8%, 1項目: 23.4%, 2項目: 34.1%, 3項目: 72.2%となった.
     【結論】露出面積25%, 手術時間2時間, 術中輸液量2lのいずれか1項目でも認める場合は, 術後低体温にいたる危険性が高く, 注意が必要である.

症例
  • 中村 由実子, 水口 誠人, 山﨑 裕行, 美馬 俊介, 坂東 真由, 長坂 信司, 山下 雄太郎, 峯田 一秀, 安倍 吉郎, 橋本 一郎
    2025 年 51 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2025/03/15
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル 認証あり

     【諸言】ネキソブリッド®は2023年8月に発売された酵素デブリードマン製剤である. 今回, 薬剤の効果について特異な経過を辿った1例を経験した.
     【症例】84歳, 女性. 風呂の湯により両下腿, 体幹にtotal body surface areaが52%のⅡ~Ⅲ度熱傷を受傷した.
     【経過】受傷翌日に両下腿に対してネキソブリッド®を使用したところ, 暗紫色の色調変化を認めた. 組織学的に壊死した真皮の大部分が除去されておらず, 皮下出血を認めた. 塗布後2日間経過しても創面に変化がなく, 第3病日に他部位と併せて追加の外科的デブリードマンを行った.
     【考察】温度が低い液体による熱傷では, 創のゼラチン化が生じていないため本薬剤の効果が低い可能性と, 薬剤性に局所凝固異常を起こす可能性が示唆された. 塗布後に均一な赤色調の中に広汎な皮下出血斑を認める場合は壊死が残存している場合があり, 早期にデブリードマンしたほうがよい可能性がある.

  • 久下 祐史, 中島 紳史, 黒木 雄一, 加藤 敬, 渡邉 栄三, 大須賀 章倫
    2025 年 51 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2025/03/15
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル 認証あり

     フッ化水素酸の体表暴露に起因した指尖部化学損傷に対しグルコン酸カルシウムの持続動脈注射と抜爪による除染を行い, 爪床の壊死所見を認めた1例を経験したため報告する. 症例は40歳台, 男性, 清掃作業中にゴム手袋の指尖部が破れ同部位よりフッ化水素酸含有の洗剤が手指に付着し指尖部の疼痛, めまい, 悪寒を主訴に受診した. 救急外来で追加洗浄とグルコン酸カルシウムゲルの外用およびグルコン酸カルシウムの局所注射を施行し疼痛の緩和が図られたため, 経過観察入院とした. 入院後に疼痛の再増悪と不穏状態を認めたため, 動脈ラインからグルコン酸カルシウムの動脈注射を開始した. 同時に抜爪を行い爪床の壊死所見を認めた. 処置後疼痛は軽減され, 第3病日に自宅退院となった. 指尖部におけるフッ化水素酸の化学損傷は疼痛管理に難渋することも多く, グルコン酸カルシウムの動脈注射や抜爪による爪床の評価を行うことが有効と考えられる.

  • 大隈 彩加, 窪 昭佳, 上原 理恵, 桑原 亜実, 伊藤 里沙子, 油井 佐恵子, 澁谷 忠希
    2025 年 51 巻 1 号 p. 26-31
    発行日: 2025/03/15
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル 認証あり

     近年, 特に高齢者で熱中症の発症頻度が高くなっている. われわれは, 熱中症に下肢熱傷を合併した3症例を経験した. いずれも高齢者で, 受傷日の気象状況は熱中症を発症しやすい条件であった. 受傷状況から, 太陽光に熱せられた物体による低温熱傷と診断した. 低温熱傷の発症機序として, 熱源の温度と接触時間だけでなく局所の圧迫に伴ううつ熱, 循環障害も組織の損傷をきたす原因であるが, 熱中症の病態が背景にあることで一層深達化する損傷を引き起こすと考えられた. 熱中症には低温熱傷を合併する可能性があり, 深達化しやすいため手術を含めた治療戦略が必要である.

  • 藤本 善大, 堀口 真仁, 髙階 謙一郎
    2025 年 51 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2025/03/15
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル 認証あり

     熱傷創の局所陰圧閉鎖療法 (以下NPWT) による母床形成中に創感染をきたした場合の一工夫を報告する. 患者は86歳, 女性. 線香に火をつけるときに着衣着火した. 左胸部から左頸部, 左上腕にかけて11%TBSA (DDB 5%,DB 6%) の熱傷を認めた. DBの部位は頸部をのぞき同日に焼痂切除し, NPWTを開始した. 第11病日に創感染を認めたため, ポビドンヨードシュガーでの外用療法に変更した. 第13病日には創部の色調が改善し, 炎症反応も低下してきたため, ポビドンヨードシュガーをエスアイ・メッシ®に塗布し創部とのコンタクトレイヤーとし, その上からNPWTを再開した. その後は感染の再燃はなく, 第21病日に分層植皮術+自家皮膚非培養細胞移植術を行った. 植皮の生着は良好で創感染もなく上皮化は進行し, 第49病日に転院した. 創感染時でもポビドンヨードシュガーを用いたNPWTを継続し良好な母床形成を得ることができた.

地方会抄録
feedback
Top