【背景】手術中の体温低下が輸血需要や創部感染, 心血管合併症などを増加させると報告されているものの, 熱傷手術での言及は少ない.また体温低下にいたるリスク因子についても, 熱傷分野における報告は限られたものしか見受けられない.今回われわれは, 当センターの治療成績をもとに術後体温低下のリスク因子を検討したため報告する.
【方法】2014年4月から2023年12月までに手術室で手術を行った患者を対象とした.評価項目は性別, 年齢, 入院から手術までの日数, 手術内容(焼痂切除術のみか, 焼痂切除+分層植皮術か), 手術時の露出面積, 手術時間, 手術中の総輸液量・輸血投与量, 手術前後の体温などとした.手術前後の体温変化-1.5℃を境に2群に分けて各項目を比較し, 術後体温低下にいたる因子の検索とスコアリングを行った.
【結果】対象となった患者群は90名で, 男性60.0%, 年齢70歳, total body surface area 12%, burn index 8.5, prognostic burn index 81.5, 死亡率28.9%であった (性別, 死亡率以外中央値) 期間中に行った手術159件のうち150件を検討対象とし, 41件 (27.3%) で-1.5℃より大きな術後体温低下を認めた.体温低下群は有意に露出面積が大きく (体温低下群vs体温非低下群=27.0 vs 19.3%, p<0.01) , 手術時間が長く (2.5 vs 2.0時間, p<0.01) , 術中輸液量が多く (2.1 vs 1.4l, p<0.01) , 輸血量も多かった (赤血球液4.0 vs 0単位, p<0.01, 新鮮凍結血漿2.0 vs 0単位, p<0.01) . 単変量解析では露出面積 (Odds比0.937, p<0.01) , 手術時間 (Odds比0.636, p 0.018) , 術中輸液量 (Odds比0.555, p<0.01) が術後体温低下のリスク因子として抽出され, 各項目のカットオフ値は23.75%, 1.85時間, 1.84lであった.露出面積25%, 手術時間2時間, 術中輸液量2lいずれかを満たす項目数ごとに術後体温低下にいたった割合を求めたところ, 0項目: 6.8%, 1項目: 23.4%, 2項目: 34.1%, 3項目: 72.2%となった.
【結論】露出面積25%, 手術時間2時間, 術中輸液量2lのいずれか1項目でも認める場合は, 術後低体温にいたる危険性が高く, 注意が必要である.
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