2022 年 48 巻 3 号 p. 108-113
症例は66歳, 男性. 自宅火災で顔面・背部・手掌・足底に深達性Ⅱ度熱傷を受傷 (熱傷面積17%) した. 鼻毛の焦げ, 口腔内と咽喉頭に煤付着を認めたが, 喉頭浮腫なく気管挿管なしで厳重に経過観察する方針とし集中治療室入室とした. 第2病日, 呼吸不全を契機に気管挿管を行った. 気道粘液物多量のため換気不全となり, 気管支鏡検査では大量の煤の付着と気管粘膜の軽度蒼白化を認めた. 大量の気道分泌物・粘液栓への対策が必要と考え, ヘパリンとN-アセチルシステイン吸入を開始した. 呼吸理学療法・吸痰処置を継続し, 第7病日に抜管, 第13病日に集中治療室退室とした.
ヘパリンとN-アセチルシステイン吸入は熱傷診療ガイドライン〔改訂第3版〕で弱い推奨である. 十分な多施設研究やランダム化比較試験が必要との見解も示されるが, 気道分泌物・粘液栓閉塞による気道損傷の換気不全に対してヘパリンとN-アセチルシステイン吸入を行い, 病態の改善に寄与したと考えうる症例を経験したため報告する.