熱傷
Online ISSN : 2435-1571
Print ISSN : 0285-113X
48 巻, 3 号
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原著
  • 森田 尚樹, 佐藤 幸男, 櫻井 裕之, 横堀 將司, 石川 秀樹, 梶原 一, 海田 賢彦, 松村 一, 福田 令雄, 濱邉 祐一, 磯野 ...
    2022 年 48 巻 3 号 p. 76-89
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/15
    ジャーナル フリー
     東京都熱傷救急連絡会は熱傷救急ネットワークとして参画施設よりデータを収集, 分析し熱傷に関する啓発活動等を行っている. 今回1991年から2020年の30年間分9,698症例のデータを5年ごとに分け分析し, 熱傷症例の傾向を検討した.
     総症例数に大きな変化は認めず, おもな受傷原因はflame burn, scald burn, inhalation injuryの順に多かった. 平均熱傷面積は有意に減少を認め, 平均年齢は有意に上昇し, 死亡率は有意に低下を認めた. 死亡症例の平均年齢は有意に上昇し, 平均熱傷面積は減少した. 死亡症例のBIは有意に減少したが, PBIは変化を認めず, 100をこえると死亡率は60%以上となった.
     原因別症例数推移は, scald burnは増加傾向を, inhalation injuryは有意に増加した. これに対し, flame burnは有意に減少を認めた. Flame burnでは火災, コンロ等, 自傷行為, scald burnではポット・鍋の湯・油, 熱い食べ物, 風呂・シャワーがおもな受傷原因であった.
     年齢別症例数は, 年少年齢 (0~14歳) ではポットの湯や油によるscald burn症例が増加傾向にあり, 対して火災によるflame burn症例は減少傾向を示した. 生産年齢 (15~64歳) では火災や自傷行為によるflame burn症例は減少傾向を認めた. 老年年齢 (65歳以上) では火災, コンロによるflame burn, 熱い食べ物, ポットの湯によるscald burnで症例数の増加を認めた. 出火原因はタバコの火の不始末 (不適当な場所への放置), 焚火, コンロが多く, 今後高齢者人口の増加に伴い, タバコの火の不適切な場所への放置, 焚火への注意喚起や, コンロ等のIH化や難燃性の衣類の推奨, ポットや鍋等の熱い食べ物による熱傷に対する啓発活動が重要であると考える.
症例
  • 庄司 真美, 桑原 大彰, 小川 令, 赤石 諭史
    2022 年 48 巻 3 号 p. 90-94
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/15
    ジャーナル フリー
     糖尿病を有する患者の足部低温熱傷潰瘍に対し腰部交感神経節ブロック (lumbar sympathetic nerve block : 以下LSNB) を行うことで上皮化が得られた症例を経験した. LSNBは下肢の血流改善効果・交感神経求心路に関与する痛みの緩和効果などがあり, 本症例においても糖尿病性神経障害の緩和目的に施行したが, 施行後より難治性であった創部の良好な収縮を得た. 直接的には下肢の血流改善効果が影響し, 間接的には糖尿病性神経障害が緩和したことで十分な創処置が可能になったことが潰瘍の改善に寄与したと考えられた. LSNBは難治性となりやすい糖尿病性足部熱傷潰瘍において, 新しい治療の選択肢となりえる.
  • 塩沢 啓, 西村 剛三, 杉原 佳奈
    2022 年 48 巻 3 号 p. 95-101
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/15
    ジャーナル フリー
     児童相談所への虐待相談数は著明に増加しており, 児童虐待は大きな社会問題の1つである. そこで, 当院で初診時に虐待を疑った乳幼児熱傷5例を検討した. 熱傷面積は3~23.5%TBSAであり, 全例高温液体熱傷であった. 親から聴取した現病歴の信頼性が乏しいことが特徴的であった. 臨床においては, 明らかな児童虐待を示唆する症例ばかりでなくグレーゾーンの症例が多い. しかし具体的な臨床指標が存在せず, また虐待の判断には評価者の主観が影響する. さらに虐待の通報が患児の親との信頼関係の構築に支障をきたす可能性があり通報に躊躇する場合が多い. 乳幼児熱傷においては創部の評価のみでなく, 家族から聴取した病歴の真偽や局所初見との矛盾, 家族の対応など, 多岐にわたる観察が必要で, 疑った際は迅速に通報し, 局所処置, 虐待対応がともに十分対応できるような虐待対応チームの整備を強化すべきと思われた.
  • 清家 紗耶佳, 石井 暢明, 秋元 正宇
    2022 年 48 巻 3 号 p. 102-107
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/15
    ジャーナル フリー
     67歳, 女性. 自宅で意識消失発作を生じヘアドライヤーの温風に曝露された状態で倒れているところを発見され, 前医に救急搬送された. 受傷5日目に手術加療目的に当院転院となり, 受傷14日目にデブリードマンとsuperficial cervical artery flapによる右頸部再建術および分層植皮術を施行した. 術後, 皮弁・植皮ともに生着良好であり, 術後14日目に退院となった. 国内外でヘアドライヤーにより生じた熱傷の報告は少ない. 本症例は日常的に使用する家電製品であるヘアドライヤーの使用中に意識障害をきたすことで長時間の温風曝露となり, 重篤な熱傷となった1例であった.
  • 中西 丈比佐, 金子 唯, 赤間 悠一, 中山 裕一, 松島 由明, 近藤 誠, 山中 恵一, 今井 寛
    2022 年 48 巻 3 号 p. 108-113
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/15
    ジャーナル フリー
     症例は66歳, 男性. 自宅火災で顔面・背部・手掌・足底に深達性Ⅱ度熱傷を受傷 (熱傷面積17%) した. 鼻毛の焦げ, 口腔内と咽喉頭に煤付着を認めたが, 喉頭浮腫なく気管挿管なしで厳重に経過観察する方針とし集中治療室入室とした. 第2病日, 呼吸不全を契機に気管挿管を行った. 気道粘液物多量のため換気不全となり, 気管支鏡検査では大量の煤の付着と気管粘膜の軽度蒼白化を認めた. 大量の気道分泌物・粘液栓への対策が必要と考え, ヘパリンとN-アセチルシステイン吸入を開始した. 呼吸理学療法・吸痰処置を継続し, 第7病日に抜管, 第13病日に集中治療室退室とした.
     ヘパリンとN-アセチルシステイン吸入は熱傷診療ガイドライン〔改訂第3版〕で弱い推奨である. 十分な多施設研究やランダム化比較試験が必要との見解も示されるが, 気道分泌物・粘液栓閉塞による気道損傷の換気不全に対してヘパリンとN-アセチルシステイン吸入を行い, 病態の改善に寄与したと考えうる症例を経験したため報告する.
看護
  • 佐藤 実李, 村中 沙織, 伊藤 美智子, 牧野 夏子
    2022 年 48 巻 3 号 p. 114-121
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/15
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は, 国内文献から熱傷患者の家族看護の現状を明らかにすることである.
     国内文献は, 医学中央雑誌WEB版を用いて「熱傷」「家族」「看護」をキーワードとして原著論文のみを対象に, 発行年の期間を限定せずに検索した. つぎに, 抽出された53文献の抄録を精読し, 熱傷患者の家族看護に関する記述のある28文献を分析対象とした. 分析対象の28文献について, 出版年, 掲載雑誌, 研究手法, 研究対象の発達段階を分類・整理し, 熱傷患者の家族看護の記述を類似性と相違性に基づき帰納的に文脈単位ごとに抜粋して要約後にカテゴリー化した. 文献の選定および分析は共同研究者間で繰り返し検討し, 整合性と妥当性の確保に努めた.
     分析結果から, 対象文献は1990年~2013年に出版されており, 掲載雑誌は『熱傷』が最も多かった. 熱傷患者の家族看護に関する記述は189文脈単位抽出され, 20のサブカテゴリーと【熱傷受傷直後から始まる家族の情緒的反応への対応と家族機能の調整】【熱傷の病期に応じた家族情報を基盤とした家族の現状理解のための支援】【意思決定のための家族との情報共有と代理意思決定支援】【終末期における死の受容を促す支援】【家族と医療者の協働による安全な療養生活のための支援】【家族と入院中の患児の愛着形成促進の支援】の6つのカテゴリーが生成された.
     熱傷患者の家族看護として, 突然の受傷によりもたらされる家族の情緒的反応や家族機能維持への介入や長期的な治療経過における現状理解への継続的支援, 医療チームと家族間での情報共有を基にした意思決定支援, 退院後の安全な療養生活を見据えた院内外の多職種連携や社会資源調整など, 入院直後から退院までの長期にわたる治療の時期に応じた支援内容が明らかとなった. また, 終末期などにおける熱傷創部への配慮を要する支援, 患児との愛着形成促進の支援は熱傷患者の家族看護において特徴的な支援であることが明らかとなった.
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