抄録
意味飽和は,同じ語を長時間凝視し続けていたり,何度も繰り返したりしていると,次第にその意味が減じられる現象として知られている.本研究では,単一語のプライミングによる語彙判断課題を用いて意味飽和効果の検討を行った.実験では視覚的な文字列の質に関する二つの条件が設定され,ターゲットは文字列の上に記号列が重ねられ,視覚的に劣化された状態で提示されたか,あるいは原形状態で提示されたかのいずれかであった.また,これらの要因は個人内要因として,両条件が混在した形で提示された.24名の大学生が実験に参加し,ターゲットが実在の単語であるか否かの判断を行った.その結果,ターゲットの視覚的な刺激の質にかかわらず意味飽和効果が認められ,下木戸(2004)と同様に,語彙判断課題であっても意味情報の関与を高めることで意味飽和効果が確認できることが示された.飽和の生起位置についても論じられ,プライムを長時間提示することで意味システムへのアクセスが抑制され,それが語彙システムにも波及することで意味飽和効果が生じている可能性が提起された.