抄録
本研究は日本語単文の読解過程において求められるさまざまな語順の処理と保持に,音韻表象が必要であるかを検討したものである.実験参加者には7文節からなる課題文を読み,その文に関する質問課題と再認課題に回答することを求めた.課題文は動作主,被動作主,それぞれに対する修飾語を含むものとし,SOV語順とOSV語順の文を設定した.質問課題は動作主判断,修飾語判断とし,それぞれ「名詞+助詞」,「形容詞(形容動詞)+名詞」,そして課題文中の二つの名詞の語順の処理と保持の指標とした.再認課題においては内容語と助詞の語順を操作した文を使用して,「名詞+助詞」と文中の二つの名詞の語順の保持について検討した.実験1においては課題文を黙読する統制条件と,音韻表象の生成と利用を阻害する構音抑制を行う条件を,実験2においては構音抑制の替わりに認知資源を剥奪するだけのタッピング条件を設定した.二つの実験の結果,文の読解において音韻表象は「名詞+助詞」,「形容詞(形容動詞)+助詞」の処理と保持を支える役割を持つことが示された.