2011 年 8 巻 2 号 p. 89-98
感情と認知の関係を調べる際,音楽を用いた気分誘導が行われることがあるが,その効果には疑問の余地がある.特に,あらかじめ音楽を聴取させることを教示することが,実験参加者による気分評価に影響を与える可能性がある.その結果,音楽が本当に気分の変化をもたらすのか,聴き手が音楽を評価したものなのかの区別があいまいになっていると言える.そこで,本研究では,音楽を意識させることなく聴取させる群を設け,従来の方法,および統制群に評価群を加えて比較検討した.その結果,ポジティブな気分について,参加者が気分と音楽自体の評価とを混同している可能性が示唆された.実験結果を踏まえ,従来の音楽による気分誘導法に関連する問題について考察した.