抄録
症例は肛門部痛を主訴とした71歳女性で,昭和53年に子宮頸癌にて広汎子宮全摘術をうけ,その後の放射線治療にて放射線直腸炎を来たし,近医にて加療をうけていた.昭和60年,同医にて直腸前壁の腫瘤形成を指摘され,直腸癌の疑いにて当科を紹介された,生検で直腸のreactive lymphoreticular hyperplasia(以下RLH)が疑われ,経肛門的に腫瘤切除術をうけた.切除標本は肉眼的にIIa様の低い隆起性病変を呈し,組織学的には,異型性の認められない成熟した小型リンパ球の著しい浸潤と大小不同の腫大したリンパ濾胞の形成が認められ,直腸のRLHと診断された.本邦では大腸原発のRLHの報告は,自験例を含めて3例のみであり,原因として一番有力視されている慢性炎症がみられたのは本症だけであった.また,子宮癌に対する放射線治療後には,照射部位の放射線直腸炎や第2癌発生の問題とともに本症のようなRLHの発生にも注意する必要があると考えられた.