抄録
プレストレストコンクリート構造物には1400 MPa級の高強度PC鋼材が使用される.PC鋼材の水素脆化試験としてFIP Reportで規定され1),腐食防食学会のJSCE S 1201で試験手順が明確にされた試験法2)が知られている.この試験は,50℃,20%チオシアン酸アンモニウム水溶液中で最大200時間までの定荷重試験を行い,破断時間で評価を行う.本試験環境で,鋼中水素濃度が急激に高くなる試験初期の腐食挙動を研究した.溶存酸素は腐食反応を促進したが,空気と脱気雰囲気での6時間の浸漬試験では腐食速度や浸漬電位に顕著な差異は認められなかった.分極測定から腐食反応において溶存酸素に依存しないカソード反応の影響が大きいことが認められた.腐食生成物と鉄イオンの分析から,FIP試験の初期では鉄硫化物と鉄酸化物が同時に生成するものと推定された.