本報告では,高温硝酸環境下におけるステンレス鋼の腐食機構について,特に溶液中のCr(VI)の還元速度との相関性に重点を置き検討を実施した.
硝酸環境において過不動態域でも粒界腐食とならない特徴を有する超高純度ステンレス鋼(EHP(Extra high purity)鋼)を用いることにより溶解としての腐食速度を決定付ける因子について検討した.試験の結果得られた合金の溶解量は,Cr(VI)の還元量から化学量論的に算出した溶解量とよく一致した.この結果はCr(VI)を含有する沸騰硝酸環境中におけるステンレス鋼の溶解機構が,Cr(VI)の還元反応のみに支配されていることを示すものである.また,Cr(VI)の還元速度定数は溶液の沸騰,非沸騰にかかわらずアレニウス則に従うことや,Cr(III)の酸化速度定数は沸騰状態に影響されることも確認した.
これらの成果に基づき,Cr(VI)の還元速度定数およびCr(III)の酸化速度定数を用いてステンレス鋼の腐食速度を決定づけている因子を明らかにした.