我が国の鉄道は開業以来140年以上経過し,この間に多くの構造物が建設され,経年が100年を超えるものも少なくない.鉄道構造物は取り替えが困難であり,高経年化した構造物を,適切に維持管理を行いながら,今後も使い続けていく必要がある.本稿では,鋼橋を主体に鉄道構造物の現状と維持管理の概要を述べるとともに,鋼橋の維持管理に関する最近の取り組みとして,モニタリング,リニューアル,耐震補強に関する研究開発を紹介する.
本報告では,高温硝酸環境下におけるステンレス鋼の腐食機構について,特に溶液中のCr(VI)の還元速度との相関性に重点を置き検討を実施した.
硝酸環境において過不動態域でも粒界腐食とならない特徴を有する超高純度ステンレス鋼(EHP(Extra high purity)鋼)を用いることにより溶解としての腐食速度を決定付ける因子について検討した.試験の結果得られた合金の溶解量は,Cr(VI)の還元量から化学量論的に算出した溶解量とよく一致した.この結果はCr(VI)を含有する沸騰硝酸環境中におけるステンレス鋼の溶解機構が,Cr(VI)の還元反応のみに支配されていることを示すものである.また,Cr(VI)の還元速度定数は溶液の沸騰,非沸騰にかかわらずアレニウス則に従うことや,Cr(III)の酸化速度定数は沸騰状態に影響されることも確認した.
これらの成果に基づき,Cr(VI)の還元速度定数およびCr(III)の酸化速度定数を用いてステンレス鋼の腐食速度を決定づけている因子を明らかにした.
金属/ガラスすきま構造を有するSUS304を人工海水中において定電位電解試験をおこなった.試験中すきま腐食の進展状況をリアルタイムで観察し,腐食起点から時間とともに成長・拡大してゆく腐食部分の二次元的広がりを独自に定義したすきま腐食形態パラメータにより定量化した.得られた結果を以下に示す.
1)腐食起点はいずれの電位でも約20μmの深さであった.一方,最大すきま腐食深さは縁下付近に位置し,貴な電位ほど深くなる.また,すきま内の腐食部分の腐食深さはいずれの電位においても約5μmを超えなかった.これらのことから,腐食部分の広がりは主として,すきま内の不動態皮膜と腐食部分との界面で起きており,暗灰色に見える腐食部分は金属が溶解したあとに残存した腐食生成物であると考えられた.
2)腐食部分の形状は,すきま腐食発生起点から,最初は見かけ上円形であり,時間経過とともに疑似楕円形に偏心する.この偏心傾向は,貴な電位ほど,また腐食が進み腐食先端部がすきまの縁下に近づくほど大きくなる.
3)腐食起点を焦点として,疑似楕円形状の長径aは,縁下方向成分aedgeとすきま中心方向成分ampとに分けられる.aedgeは貴な電位ほど,また縁下に近づくほど指数関数的大きくなるが,ampは時間に対してわずかながら小さくなり電位依存性は小さい.
4)腐食先端部の移動速度は,その先端位置がすきまの縁下に近いほど大きくなる.これは,移動速度がすきま内腐食先端位置の電位により決定され,その結果電流が縁下に近いほど大きくなるためと考えられた.