2019 年 68 巻 5 号 p. 120-127
溶液中の金属表面に硫化物イオンを安全に発生させるための新しい液中イオン銃技術を開発した.これまでの液中イオン銃(LPIG)は局所的な塩化物イオン発生システムであり,走査型電気化学顕微鏡法の応用技術として金属表面の局部腐食挙動を調べるために使われてきた.LPIGの銀/塩化銀微小電極の代わりに,銀/硫化銀微小電極を液中硫化物イオン銃(LPSIG)として用いた.LPSIG微小電極のカソード分極により,微小電極近傍において硫化水素イオンが発生し,硫化水素イオンを含む安全な環境を供給することができた.ここでは主に,LPSIGからの硫化水素イオンの発生に加え,これを適用した銀表面や316Lステンレス鋼表面の変質挙動について解説する.硫化水素イオンによる腐食の調査手段としてのLPSIG技術の潜在能力についても議論する.