物理現象としての結露時におけるACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサの出力挙動と腐食量の関係を明らかにするため種々の試験を行った.結露時のセンサ出力は降雨でのぬれや付着塩の吸水と比較して挙動が異なるため,切り分けて評価する必要があることがわかった.いずれの現象においても,その場測定(in situ)によって得られた出力と腐食量には相関が認められたので,ACMセンサ出力から短時間での腐食速度の推定が可能と考えられる.
自動車の軽量化に伴い高強度鋼板の複雑成形部品への適用が検討されている.成形後の複雑なひずみは遅れ破壊性に影響を与える可能性がある.そのため本研究では,成形予測技術である成形限界線図を用いた新遅れ破壊評価法を考案した.成形限界線図を作成し,各成形モード(単軸,平面ひずみ,等二軸)毎に応力と水素を付与し割れ発生を評価した.今回の結果から,成形限界線図を用いた手法で遅れ破壊を評価可能である事がわかった.
溶液中の金属表面に硫化物イオンを安全に発生させるための新しい液中イオン銃技術を開発した.これまでの液中イオン銃(LPIG)は局所的な塩化物イオン発生システムであり,走査型電気化学顕微鏡法の応用技術として金属表面の局部腐食挙動を調べるために使われてきた.LPIGの銀/塩化銀微小電極の代わりに,銀/硫化銀微小電極を液中硫化物イオン銃(LPSIG)として用いた.LPSIG微小電極のカソード分極により,微小電極近傍において硫化水素イオンが発生し,硫化水素イオンを含む安全な環境を供給することができた.ここでは主に,LPSIGからの硫化水素イオンの発生に加え,これを適用した銀表面や316Lステンレス鋼表面の変質挙動について解説する.硫化水素イオンによる腐食の調査手段としてのLPSIG技術の潜在能力についても議論する.