抄録
本論は,米国における先進的な事例として,ウィスコンシン州,オハイオ州,ミネソタ州の家庭科カリキュラム開発に焦点を当て,1990年代にみられる「実践問題アプローチ」の特質と意義を明らかにすることを目的としている。3州の事例を考察した結果,いずれも,80年代の「実践問題アプローチ」を発展させる方向で研究・実践を深め,家庭科カリキュラムの開発・改訂を精力的に進めていた。80年代に初めて開発した「実践問題アプローチ」の家庭科カリキュラムを土台としつつ,90年代には,実践的推論の構成要素と要素間の関係を明示し,概念の構造化とプロセスの精緻化を行うことによって,実践的推論の質の向上を目指していた。また,行為の根拠を提示し,意思決定の規準を明確にしたり,価値判断の妥当性を検証する評価法を適用するなどして,相互主観的な判断にとどまらず,より客観性や普遍性を追求する傾向がみられた。