抄録
本研究の目的は,小学校の音楽科鑑賞授業において,児童が舞踊の様式的運動の一部を経験することを通して,どのように舞踊音楽の「拍」概念の多様性を知覚・感受するのかについて,児童の気付きから構造的に明らかにすることである。この目的を達成するため,民俗舞踊と宮廷舞踊というルーツの異なる3拍子の舞踊音楽を比較鑑賞する授業を計画した。まず,2つの舞踊音楽を聴き,3枚の舞踊写真から組み合わせを予想した(Step 1)。次に2つの舞踊ステップを経験し(Step 2),「拍」の質的な違いについて考え(Step 3),2つの舞踊音楽のよさについて記述する(Step 4)。授業は,公立小学校2校において実践し,ワークシートの記述から児童の知覚・感受の状況をグラウンデッド・セオリー・アプローチに基づいて構造化した。その結果,2つの舞踊音楽に関して,「拍」の質への知覚・感受,先人への共感的想像,動きと構成要素との関連等が述べられ,音楽文化や社会に関する情動が伴って「拍」概念の多様性に気付く様相が確認できた。