日本教科教育学会誌
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43 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • pedagogical content knowledge を視点として
    越智 拓也, 磯﨑 哲夫
    2020 年 43 巻 2 号 p. 1-9
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究では,pedagogical content knowledge をフレームワークとして,教育実習生の理科授業に対する認識が,教育実習を通じてどのように変容するのかを検討した。平成27-29年に国立A大学において中・高等学校の教育実習(理科)を受講する学生を対象として,教育実習の前後にプレ(N=224)・ポスト(N=226)調査を行った。その結果,①教育実習生の実態として,生徒の実態を把握することとどのような方略で指導を行うかということは,十分に区別されていないこと,②教育実習を通じて,教育実習生は,授業研究においては,授業でどのような素材・トピックを教材として用いて,どのような授業を展開していけばよいのかを吟味するようになっていること,の2点を指摘した。
  • 「拍」概念の多様性に着目して
    森保 尚美
    2020 年 43 巻 2 号 p. 11-24
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,小学校の音楽科鑑賞授業において,児童が舞踊の様式的運動の一部を経験することを通して,どのように舞踊音楽の「拍」概念の多様性を知覚・感受するのかについて,児童の気付きから構造的に明らかにすることである。この目的を達成するため,民俗舞踊と宮廷舞踊というルーツの異なる3拍子の舞踊音楽を比較鑑賞する授業を計画した。まず,2つの舞踊音楽を聴き,3枚の舞踊写真から組み合わせを予想した(Step 1)。次に2つの舞踊ステップを経験し(Step 2),「拍」の質的な違いについて考え(Step 3),2つの舞踊音楽のよさについて記述する(Step 4)。授業は,公立小学校2校において実践し,ワークシートの記述から児童の知覚・感受の状況をグラウンデッド・セオリー・アプローチに基づいて構造化した。その結果,2つの舞踊音楽に関して,「拍」の質への知覚・感受,先人への共感的想像,動きと構成要素との関連等が述べられ,音楽文化や社会に関する情動が伴って「拍」概念の多様性に気付く様相が確認できた。
  • 「本質的な問い」に着目して
    酒井 美奈子, 松本 伸示
    2020 年 43 巻 2 号 p. 25-34
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 単元に関わる児童の素朴概念を,科学的概念を形成するために設定した「本質的な問い」により学習前に把握できるか否かを,具体的事例を通して明らかにすることである。加えて「本質的な問い」を活用した診断的評価の在り方について提案することを目指した。実践の結果,既習事項が児童の素朴概念を見えにくくする場合があること,すなわち「本質的な問い」の設定によっては,既習事項のみ表出される可能性があること,さらに,一人称的な記述が引き出されるよう「本質的な問い」を工夫する必要性が示唆された。診断的評価を行うには,「本質的な問い」によって児童の素朴概念を把握した上で,トピックごとの問いを工夫し補完することも必要である。
  • 米崎 里, 川見 和子
    2020 年 43 巻 2 号 p. 35-48
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    日本の学習指導要領の英語の文法項目においては,文法知識を実際に活用できる指導が謳われているが,実際には十分な言語活動が行われているとは言い難い。その要因の一つには日本の教科書の中で,文法定着のための言語活動が十分に保証されていないことがあげられる。本研究は,学校での外国語教育が成果をあげていると言われているフィンランドの外国語教育に注目し,フィンランドの小学校英語教科書では学習者のコミュニケーション能力の育成のためにどのようプラクティスが使われているかを分析することを目的とした。分析の結果,フィンランドの教科書には,1)質的・量的に豊富なプラクティス,2)学年内・学年間で反復して学べるプラクティス,3)語彙・文法が組織的に結びつけられたプラクティスが提供されており,これらのプラクティスを通して,教室内で英語を使用する機会を持たせ,学習者の英語コミュニケーション能力の涵養を目指していることがわかった。
  • 国際的な数学教育研究観の変遷から見る新しい学問領域観の提案
    上ヶ谷 友佑, 大谷 洋貴
    2020 年 43 巻 2 号 p. 49-62
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,所産( プロダクト) としての教科教育学が成立しないことを示し,教科教育研究を過程( プロセス) として捉える新しい研究観を提起することで,佐藤学氏の教科教育学批判に応えることである。このため,本稿では主として次の4点に取り組む。1) 国内における教育心理学や一般教育学の動向を踏まえ,教科教育学の領域固有性について検討する。2) 数学教育研究において国際的に論じられる「数学者の役割」論と「教えるための数学的知識」論から,教科教育研究者の役割について検討する。3) 教科の領域固有性の追究それ自体を否定する国際的な論調や,学校教育の枠に留まらない数学の成人教育論を参照しながら,プロセスとしての教科教育研究という新しい研究観を提起する。4) 推論主義の視座を踏まえ,教科教育研究が学際的活動として既存の一般教育学と特定の主題の学問領域に新しい洞察や視座を提供する創造的過程となり得ることを示す。
  • 中等社会科授業構成力の向上を目指して
    粟谷 好子
    2020 年 43 巻 2 号 p. 63-75
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    教員養成の質の保証と評価の公平性・妥当性が問題とされている。本研究の目的は,教育実習生の社会科授業構成力を向上させるにはどのようなルーブリックがよいのかを探索するものである。他大学のものを参考に,1授業をつくる前提,2授業づくり,3授業実践,4授業観察・検討会・省察の4規準を設けたルーブリックを作成した。①ルーブリックでの評価によると,実習生の中等社会科授業構成力は,定型的熟達者の段階では規準によっては向上が見られた。②ルーブリックは,実習の開始時から実習生に理解されるものではなく,徐々に理解される規準もあった。③理解されない記述語がある規準は活用が進まず,その規準で見とる能力の向上を促さない,という結論となった。実習生に実習開始時から理解され,活用されるものにするためには,ルーブリックを実習生と共に作成し,共に肯定的に活用して目標達成を目指すという,作成と活用の仕方が示唆された。
  • 小中学校の家庭科授業を事例に
    貴志 倫子
    2020 年 43 巻 2 号 p. 77-88
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究は,授業研究による家庭科教師の成長をとらえるために,小中学校教師が研究授業公開の経験をどう評価し,その経験から教科理解や授業改善に関して何を認識したか明らかにすることを目的とした。教科研究会や大学附属学校で授業公開した5名を対象に2015年10~11月に調査を実施し,質問項目への回答および面接の遂語録をデータとして分析した。その結果,学習者への対応の変化を全対象者が認識し,教材の精選や使い方の工夫,思考を促す教材の必要性の理解が得られていた。さらに,生活の科学的な根拠をとらえる必要性など,教科特有の教科観を獲得していた。一定の教職歴がある教師は,授業研究の知見継承の意欲や伝達の手ごたえに言及しており,教科のリーダー的資質を涵養していた。他方,日程調整や時間外勤務の増加,日程優先からくる他の授業への影響も認識されており,授業研究のための時間の創出や適切な管理の必要性が示された。
  • 第4学年「とじこめた空気」の事例をもとに
    澤柿 教淳, 稲田 結美, 雲財 寛, 角屋 重樹
    2020 年 43 巻 2 号 p. 89-100
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究は,小学校理科の問題解決過程で発現する「対話のdialogic の側面」とその推移を明らかにすることを目的とする。まず,「対話の dialogic の側面」 として, 1)ドクサの生み出し /関係的位置の設定→2)予想しがたいできごととの邂逅/ 関係的位置の変換→3)ドクサの崩し/ 関係的位置の確認→4)真実・真理の創造/ 問題への取り組み を措定した。次に,小学校理科の「 予想・仮説の設定」 及び「 考察」 の場面で想定される発話を単純化し, 発話タイプ A〜C に記号化するとともに,「対話のdialogic の側面」の発現と関係付けた。実際の授業事例をサンプリングして主な発話を抽出し,プロトコルを作成して分析した。その結果,「予想・仮説の設定」及び「考察」の場面で「対話のdialogic の側面」の発現を捉えるとともに,それらは,両場面でほぼ共通した様態で推移することを確認した。また,その推移には,局面を打開する発話タイプB の発現が契機となっていることが示唆された。
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