世界中の人々が,未知の感染症への対応に迫られ,その過程において患者やその治療にあたる医療関係者等が偏見や差別に晒されている。ここで想い至るのが,ハンセン病患者の排除が日常的であった歴史的事実である。
ハンセン病回復者の平沢保治氏は,病を得たために,人間らしく生きるための権利を悉く奪われたが,教育に活路を求め「語り部」として看護学校,地域の小・中学校等において人権の大切さを訴えている。本稿においては,「『語り部』の『語り』を教材化し人権教育を推進する意義とは何か」という問いの下,①「語り」の教材化について検討し,人権教育改善の方向性を指摘する。②コロナ禍にあってハンセン病回復者の「語り」を教材化した意義を明らかにする。③教室での「語り」の後の「沈黙」が持つ働きとその意味を明らかにする。これら3点の課題の達成に向けて多角的に探究し,形骸化しがちな人権教育に一石を投じる。