登熟期のイネにおける暗呼吸量の抑制は乾物生産量ならびに収量の向上に貢献すると考えられる. 暗呼吸の抑制の可能性を検討するため, 籾数の多少が各器官の暗呼吸と乾物生産に及ぼす影響を調べた. イネ品種坊主を用い, 2段階の穂の部分切除, 全切除, および無切除によって籾数を変える4つの処理と4段階の日射を組み合わせる区を設け, 穂, 葉身および茎 (茎と葉鞘) の暗呼吸速度および乾物増加量を調査した. 総光合成速度 (Pg) は, 籾数が多い個体ほど高く, また光が強いほど高かった. 穂の暗呼吸速度は籾数の違いにかかわらず, 大部分が穂の乾物成長に関わっていた. 茎葉部では, 籾数が多い個体ほど炭水化物の転流速度が高まったが暗呼吸速度は増加せず, 転流速度当たりの暗呼吸速度は低下した. 一方, 籾数が多いほど, Pgに対する茎葉部の暗呼吸の比が低下し, 穂の乾物増加量が高くなった. 以上より, 籾数が多い個体では, 総光合成速度が高まるとともに, 茎葉部からの単位転流量当たりの暗呼吸が低下するため, 成長効率が改善され, 穂の乾物増加量の向上がもたらされるものと考えられた.