抄録
定植前リン酸苗施用の水稲への適用を図るため, まず15品種の水稲を供試し, 移植前の苗へのリン濃度= 0.25, 0.5, 1%のリン酸カリ水溶液の浸漬処理が, 移植後の初期生育及び無機養分吸収に及ぼす影響を調査した. 移植前リン酸苗施用により, 移植後4週間の乾物重, 葉面積, 分げつ数は, 無処理苗に比べいずれも増加する傾向が認められた. 特に, 移植後2週間では同化産物の葉身への分配が高まることで葉面積比(LAR)が, 2~4週間では純同化率(NAR)が高まった. また, 移植後2週間までに分げつ数の増加が認められることから, 移植前リン酸苗施用は活着を早めるものと考えられた. 移植2週間後の各部位のP含有率は, いずれの品種でも処理濃度が高いほど高まったが, 増大の程度には品種間差があり, インド型品種など熱帯から日本の西南暖地で育成された品種で高くなった. 移植4週間後には, 移植前リン酸苗施用区と慣行区のP含有率の差は小さくなったが, 乾物重が大きくなったため, 総P含有量は移植前リン酸苗施用で大きくなり, 移植前リン酸苗施用によるPの吸収促進効果は少なくとも4週間は持続するものと考えられた. この結果, 移植前リン酸苗施用により, 水稲でも移植後のPの吸収が促進されることにより, 初期生育が促進されることが明らかとなり, 本施肥法によるリン酸減肥栽培の可能性が示唆された.