抄録
ハダカムギは,硝子率が低いほど品質が高く評価される.本研究では,硝子率の異なるハダカムギ品種マンネンボシについて,胚乳組織を電子顕微鏡で観察するとともに,原麦タンパク質含量や種子の充填(登熟)程度の指標となりうる種子比重,容積重などの種子形質と硝子率との関係を解析した.実験には愛媛県農林水産研究所内の栽培試験による2011年産および2012年産研究所群 (21点,69点) と愛媛県内各地で現地生産された2011現地群(24点)の3群を供試した.いずれのサンプル群の硝子粒も胚乳組織内ではデンプン粒の周囲が,漆喰状のマトリックスタンパク質によって密に充填されていた.また,硝子率と有意な相関関係が3サンプル群を通じて見られた形質は種子比重と60%精麦時間であった.従来から硝子率との関係が知られていた原麦タンパク質含量も,研究所群では2カ年とも硝子率と正の相関関係がみられた.これらのことから,硝子質粒では胚乳組織内のデンプン粒の周囲を充<5861>するタンパク質の量が多いことにより,種子比重が高くなると推察された.実際に硝子率に対する重回帰分析を行ったところ,原麦タンパク質含量に加えて種子比重を説明変数に採用した2因子モデルではいずれのサンプル群においても,原麦タンパク質含量のみによる単相関による説明率 (R2)よりも著しく高い説明率が得られ,ハダカムギの硝子率には原麦タンパク質含量と種子比重の2つが主要因として関与していることが示唆された.