低温苗立ち性に優れると報告のある外国稲「Dunghan Shali」および「Italica Livorno」と,日本稲の「おぼろづき」および「日本晴」を用いて幼苗期における初期伸長性と植物ホルモンとの関係について解析を行った.27℃および12℃における初期伸長性は,どちらの条件でも「Dunghan Shali」,「Italica Livorno」が「おぼろづき」,「日本晴」に比べて優れていた.「Dunghan Shali」はジベレリンの作用により初期伸長性が優れると報告されているが,「Italica Livorno」の27℃での初期伸長性が優れるのも,ジベレリンの生合成系の遺伝子OsGA20ox1の発現が高かったことから,ジベレリンの影響が予想された.一方,12℃においては「Italica Livorno」で他の3品種よりもOsGA20ox1およびOsGA3ox1の発現が高く,ジベレリンによる伸長性の亢進が考えられた.「Dunghan Shali」では12℃におけるOsGA20ox1の遺伝子発現は「Italica Livorno」より低かったが,生長を抑える作用のあるアブシシン酸(ABA)が他の品種と比べて低く保たれていた.また,12℃において「Italica Livorno」はABAが増加したが,ABAと拮抗的な相互作用のあるサリチル酸が増えていた.このように,27℃における初期伸長性ではジベレリンの影響が大きいが,12℃の低温ストレス環境下では複数の植物ホルモンのバランスが幼苗の初期伸長性に重要であると考えられた.