日本作物学会紀事
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中国上海市で市販されている精米の理化学的・形態学的特性-2015年産米の事例から-
佐藤 登代子新田 洋司塩津 文隆浅木 直美井上 栄一
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2021 年 90 巻 1 号 p. 52-63

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抄録

高品質・良食味米への要求や嗜好が強くなってきている中国で,市場で流通している米の品質や食味特性,貯蔵物質の蓄積構造の特徴を明らかにすることを目的とした.人口が多く多種類の主食米が流通する上海市内で販売されている米を調査対象とした.聞き取り調査の結果,市民に好まれている精米の多くは中国東北部の黒竜江省・遼寧省,東部の江蘇省の米であった.とくに東北部産の品目「五常大米」と「秋田小町」,江蘇省産の米が好まれていた.精米の品質・食味に関する諸形質を調査した結果,アミロース含有率およびタンパク質含有率は「五常大米」および「秋田小町」で低く,江蘇省産「射陽大米」などでは高かった.炊飯米の微細骨格構造を走査電子顕微鏡で観察した結果,「五常大米」および「秋田小町」では表面には細繊維状構造が,表層には大きな膜状構造が,その深部には多孔質構造が高頻度で認められた.これらの構造は日本における「良食味米」で認められる構造と類似していた.一方,「射陽大米」などでは表面に細繊維状構造は認められたが,内側の多孔質構造の発達が不十分で,中間部や中心部ではタンパク顆粒が散在し糊化が不十分な箇所が多かった.これらの構造は日本における「低食味米」で認められる構造と類似していた.以上より,上海市内で販売され食されている精米の多くは品質や食味が日本国内で市販されている精米と大差なく,炊飯米の微細骨格構造も類似していることが明らかとなった.そして,上海市内において高品質・良食味米が一般的に流通・販売されていることが判明した.

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