日本作物学会紀事
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90 巻, 1 号
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研究論文
栽培
  • 及川 聡子, 鈴木 健策, 西 政佳, 由比 進, 松波 麻耶, 下野 裕之
    2021 年90 巻1 号 p. 1-9
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    寒冷地において,雪解け後の作業制約や春作業の競合がない初冬直播き栽培は,規模拡大やコスト低減を実現する有効な手段の1つである.本研究では,初冬直播き栽培での越冬後の出芽率に与える種子への薬剤処理の効果と採種年の影響を評価した.コーティング資材を含め全26種の薬剤処理の効果を検討した結果,最も効果の高い薬剤はチウラム水和剤(キヒゲンR-2フロアブル.以下,KG)であり,対照(無コーティング,当年産種子,休眠打破なし)での越冬後の出芽率3~9%より17ポイント向上させた.また,前年産と当年産の種子では前年産の出芽率が低下すること,また種子の休眠打破処理によって出芽率が大幅に低下することを明らかにした.すなわち,初冬直播きにおいてKGが有効な種子薬剤であることを見出すとともに,種子休眠の維持が初冬直播き栽培の出芽率の向上に重要であることを示した.

  • 提箸 祥幸
    2021 年90 巻1 号 p. 10-17
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    プライミング処理は乾燥や低温などのストレス下での種子の発芽・出芽を促進する方法として注目されている.しかし,水稲種子におけるプライミングの報告は少なく,特に北海道の水稲品種の低温環境下での発芽・出芽への効果については不明な点が多い.本研究では,北海道で栽培されている直播向け品種を含む水稲品種を用いて,種子を水に浸漬するハイドロプライミング処理による低温発芽および低温出芽に及ぼす影響について検討した.北海道の直播向け品種「さんさんまる」および「ほしまる」を用いた試験により,25℃18時間の吸水処理を基準となる処理条件とした.このプライミング処理により,多くの供試品種で低温下での発芽および出芽が無処理区に対して早まる傾向が観察され,特に「さんさんまる」および「大地の星」で促進効果が大きかった.プライミング処理は,北海道の栽培品種に対して広く低温下での発芽・出芽の促進効果が見られ,寒地における直播栽培の普及に貢献する技術となる可能性がある.

  • 水田 圭祐, 荒木 英樹, 中村 和弘, 松中 仁, 高橋 肇
    2021 年90 巻1 号 p. 18-28
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    穂肥重点施肥はパン用コムギの高品質多収栽培に適しているが,速効性肥料を用いた分施体系のため,追肥作業に時間や労力がかかることが課題となっている.本研究では,省力的に穂肥重点施肥の肥効を再現できる肥効調節型肥料の種類や施用時期を明らかにするため,熊本県と山口県でそれぞれ4作期および2作期にわたって検証した.熊本県で栽培した「ミナミノカオリ」の収量は,肥効調節型肥料の種類に関係なくいずれの作期も穂肥重点施肥区と同程度であった.子実タンパク質含有率は,2016/17年(2016年冬播種~2017年春収穫,以下同様)の全量基肥IB区と全量穂肥CDU区では低くなる傾向があったが,その他の作期ではいずれの肥効調節型肥料を用いても穂肥重点施肥区と同程度であった.成熟期の地上部窒素蓄積量は,いずれの作期でも茎立ち開始期に尿素とCDUを施用した穂肥尿素+CDU区と全量基肥LP30区が穂肥重点施肥区と同程度まで高まった.山口県で栽培した「せときらら」では,2017/18年の穂肥尿素+CDU区が穂肥重点施肥区と同等の収量および成熟期地上部窒素蓄積量となった.倒伏は2018/19年の熊本県における試験でのみ発生し,黄熟期の倒伏程度は全量穂肥CDU区が0.0と慣行分施区や全量基肥LP30区の2.6および2.3に比べて低かった.全量穂肥CDU区で倒伏程度が低かった原因は,慣行分施区や全量基肥LP30区に比べて稈長が16~76 mm短く,稈基部の節間長が8.4~23.6 mm短くなったためであった.茎立ち開始期に肥効調節型肥料および尿素を施用する全量穂肥施肥体系は,省力的なパン用コムギの高品質多収栽培に適した栽培方法であると考えられた.

  • 金井 一成, 森田 茂紀
    2021 年90 巻1 号 p. 29-37
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    セルロース系のエネルギー作物の1つとして,エリアンサスが注目されている.エリアンサスは,苗を定植した後,毎年の再生過程で旺盛な生育を示し,個々の株が大型化していく.それに伴って群落を構成している株の生育に大きな差異が認められるようになり,場合によっては枯死する株もある.そこで本研究では,エリアンサス群落を構成する株の生育変異の年次推移について,個体群生態学的な観点から解析を試みた.その結果,定植年数に関わらず,茎数/株が小さいものの頻度が高く,茎数/株が大きいものほど頻度が低い傾向が年々,拡大した.また経年変化を見ると,苗の定植後,群落を構成する株の茎数が増加しながら,生育変異が拡大していくことが明らかになった.そこで,この生育変異について周囲から受ける被圧との関係を検討したところ,全体傾向として,茎数/株が小さいと,その株が受けると考えられる被圧が大きく,茎数/株が大きいと被圧が小さい傾向が認められた.少なくとも,エリアンサスを数年にわたって栽培した範囲では最終収量一定の法則が成り立つ可能性が示唆され,早期に人為的な間引きを行うと収量が増加する可能性があり,また株の生育変異が拡大しにくくなる可能性があるため,収穫時の作業効率もあがると考えられる.

  • 印南 ゆかり
    2021 年90 巻1 号 p. 38-42
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    サトイモは干ばつに弱い作物であるが,灌水のタイミングやその量についての指針がない.そこで, 収益性の観点から適正な土壌水分とその制御法について検討した.2015年に雨よけ条件下で土壌水分を体積含水率で15%,25%および35%に設定した3試験区,2017年には露地条件下で慣行区(7日おき灌水),土壌水分25%区および無灌水区の3試験区を設けた.商品収量(商品として取り扱われる孫芋とひ孫芋の収量の合計)は,土壌水分35%区および慣行区(土壌水分30%程度)で多かったが,販売単価の高い3L~Sサイズ収量は土壌水分25%区が他の2処理区と同等,あるいはやや多かった.一方,下物収量は土壌水分25%区で少なかった.以上より,収益性の観点からみると土壌水分を25%前後に制御することが単位面積当たりの収益性が優れていた.

品質・加工
  • 谷中 美貴子, 高田 兼則, 船附 稚子, 石川 直幸
    2021 年90 巻1 号 p. 43-51
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    Glu-A1座およびGlu-D1座支配のグルテニンサブユニット構成が異なる4種類の日本麺用コムギの準同質遺伝子系統を開花期窒素施用量を変えて栽培し,得られた小麦粉タンパク質含有率が異なる小麦粉を用いて,グルテニンサブユニット構成,タンパク質含有率の違いが製菓適性に及ぼす影響を,スポンジケーキ試験,クッキー試験およびSRC (Solvent Retention Capacity)により調査した.小麦粉タンパク質含有率は7.7~11.7%で,小麦粉タンパク質含有率が高まると,スポンジケーキの比容積,クッキーの直径,スプレッドファクターは有意に小さくなり,小麦粉タンパク質含有率と有意な負の相関関係を示した.スポンジケーキの比容積には系統間で有意な差はなかった.クッキーの直径,スプレッドファクター,乳酸SRCには系統間で有意な差がみられ,Glu-A1座サブユニットが欠失した系統では,Glu-A1座サブユニット1を持つ系統に比べて,クッキーの直径とスプレッドファクターが大きく,乳酸SRCが低かった.スポンジケーキの比容積とクッキーの直径およびスプレッドファクターは,グルテンの強さを示す乳酸SRCと有意な負の相関関係を示したが,その相関関係は小麦粉タンパク質含有率との相関関係より弱かった.これらの結果から,製菓適性には小麦粉タンパク質含有率が強く影響すること,クッキー適性にはグルテニンサブユニット構成が影響し,Glu-A1座サブユニットの欠失がクッキーの直径やスプレッドファクターに正の効果を持つことが示唆された.

形態
  • 佐藤 登代子, 新田 洋司, 塩津 文隆, 浅木 直美, 井上 栄一
    2021 年90 巻1 号 p. 52-63
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    高品質・良食味米への要求や嗜好が強くなってきている中国で,市場で流通している米の品質や食味特性,貯蔵物質の蓄積構造の特徴を明らかにすることを目的とした.人口が多く多種類の主食米が流通する上海市内で販売されている米を調査対象とした.聞き取り調査の結果,市民に好まれている精米の多くは中国東北部の黒竜江省・遼寧省,東部の江蘇省の米であった.とくに東北部産の品目「五常大米」と「秋田小町」,江蘇省産の米が好まれていた.精米の品質・食味に関する諸形質を調査した結果,アミロース含有率およびタンパク質含有率は「五常大米」および「秋田小町」で低く,江蘇省産「射陽大米」などでは高かった.炊飯米の微細骨格構造を走査電子顕微鏡で観察した結果,「五常大米」および「秋田小町」では表面には細繊維状構造が,表層には大きな膜状構造が,その深部には多孔質構造が高頻度で認められた.これらの構造は日本における「良食味米」で認められる構造と類似していた.一方,「射陽大米」などでは表面に細繊維状構造は認められたが,内側の多孔質構造の発達が不十分で,中間部や中心部ではタンパク顆粒が散在し糊化が不十分な箇所が多かった.これらの構造は日本における「低食味米」で認められる構造と類似していた.以上より,上海市内で販売され食されている精米の多くは品質や食味が日本国内で市販されている精米と大差なく,炊飯米の微細骨格構造も類似していることが明らかとなった.そして,上海市内において高品質・良食味米が一般的に流通・販売されていることが判明した.

収量予測・情報処理・環境
  • 有吉 真知子, 村田 資治, 中島 勘太, 金子 和彦, 前岡 庸介, 徳永 哲夫, 池尻 明彦, 中野 邦夫, 荒木 英樹
    2021 年90 巻1 号 p. 64-71
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    山口県では酒造好適米「山田錦」の需要が増加傾向にあり,実需者からは高品質化と安定供給が求められている.本研究では,近接リモートセンシングによって,「山田錦」の窒素蓄積量を推定することが可能かどうか,および収量関連形質との間にどのような関係があるのかを明らかにすることを目的とした.2016年から2018年にわたり,地力の異なる複数圃場に様々な窒素施肥区を設け,生育量や収量を評価した.「山田錦」の地上部窒素蓄積量,総籾数および玄米タンパク質含有率は,近接リモートセンシングにより近赤外光と赤色光の反射率から得られるS1値と密接な正の相関関係を示し,その回帰直線から「山田錦」の適正籾数あるいは適正タンパク質含有率となる穂揃期の目標S1値32~36を設定できた.穂揃期のS1値は,幼穂形成期以降の窒素施肥量(穂肥窒素量)に比例して高くなることから,目標とする穂揃期のS1値と幼穂形成期に測定したS1値から必要な穂肥窒素量を算出することが可能であると考えられた.

研究・技術ノート
  • 村田 資治, 金子 和彦
    2021 年90 巻1 号 p. 72-77
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    パン用コムギ品種「せときらら」において子実タンパク質含有率,収量および開花期追肥量の三者の関係を明らかにすることを目的として,収量と開花期追肥量を説明変数とする子実タンパク推定式を作成するとともに,その精度を検証した.推定式の係数は山口県農林総合技術センター(山口県山口市)で3年間行った「せときらら」の施肥試験のデータを用いた重回帰分析によって決定した.収量の係数は–4.056×10–3,開花期追肥窒素量の係数は0.517だった.交互作用の効果は有意でなかったため除外した.推定式における収量と開花期追肥窒素量の係数から,「せときらら」の子実タンパク質含有率は収量が100 g m–2 増えるごとに0.406ポイント低下し,開花期追肥窒素量を1 g m–2 増やすごとに0.517ポイント増加することが明らかとなった.作成した推定式を用いてセンターで実施した奨励品種決定調査(奨決データ)と山口市南部の農家圃場(現地データ)における「せときらら」の子実タンパク質含有率を推定した.平均平方根二乗誤差は子実タンパク質含有率として奨決データ1.4%,現地データ2.2%であり,奨決データと比べて現地データの方が推定精度が低かった.現地で推定精度が低下した要因のひとつとして,データを取得した圃場における開花期追肥の時期が早かったことが考えられた.以上のことから,栽培管理の影響を受ける可能性はあるものの,本研究で作成した推定式によって収量と開花期追肥窒素量から「せときらら」における子実タンパク質含有率を推定できると考えられた.

  • 黒田 幸浩, 鈴木 健司, 桑田 主税
    2021 年90 巻1 号 p. 78-82
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    千葉県が育成し,2018年に品種登録されたラッカセイ品種「千葉P114号」はショ糖含有率が高いことが特長である一方で,その特長が発揮されない事例が一部で確認されている.さらに「千葉P114号」は分枝長が長く,収穫作業性が低いことが問題点として挙げられている.本研究ではこれらの問題を解決することを目的として,生育後期の刈高30 cmでの茎葉切除が「千葉P114号」の収量及び品質に及ぼす影響を調査した.その結果,莢実重及び子実重は播種期に関わらず,切除時期が早いほど減少した.また,ショ糖含有率はいずれの播種期においても開花期後70日での茎葉切除により,茎葉を切除しない場合と比較して,ショ糖含有率が高くなった.以上の結果から,茎葉部の一部を切除することによって収量が減少する一方で,ショ糖含有率が向上することが明らかとなった.また切除時期については,収量と高いショ糖含有率が両立できる開花期後70日が適していると考えられた.

  • 小林 英和, 中込 弘二, 千田 雅之
    2021 年90 巻1 号 p. 83-91
    発行日: 2021/01/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    早晩性の品種間差を利用した収穫期間の拡大を目指し,出穂時期の異なる極短穂型WCS用イネの同一収穫日における乾物収量と飼料成分を8月下旬から10月にかけて調査するとともに,穂ばらみ期の窒素追肥による粗タンパク質含有率の向上効果について検討した.乾物収量は,9月までは早生系統の「中国飼224号」(「つきはやか」として品種登録出願)と晩生品種の「つきすずか」の間に有意差は認められず,10月以降は「つきすずか」のほうが有意に高くなった.サイレージ発酵に重要な茎葉部単少糖含有率は,9月上旬までは「つきすずか」のほうが「中国飼224号」よりも有意に低かったが, 10月には両者に有意差は認められなくなった.可消化養分総量は,9月までは「中国飼224号」が,10月は「つきすずか」のほうが高いか同程度となった.粗タンパク質含有率では有意な品種間差が認められなかった.穂ばらみ期追肥はいずれの品種に対しても粗タンパク質含有率を増加させたが,乾物収量や他の成分には明確な影響を与えなかった.以上の結果から,早生系統「中国飼224号」と晩生品種「つきすずか」を併用する体系では,「つきすずか」単独では飼料品質が低く収穫に適さない8月下旬~9月の期間にも,高い品質のWCS用イネが収穫できると考えられた.また,穂ばらみ期の窒素追肥は粗タンパク質含有率を効率的に増加させ,飼料としての高付加価値化に貢献すると考えられた.

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