土壌の塩類集積は植物の生育を阻害する要因の一つであり,その塩類過剰に適応するため植物は様々な機構を発達させている.特殊な表皮組織である塩腺もその一つであり,地上部に運ばれた過剰な塩類を体外に排出する役割を担っている.イチゴツナギ亜科を除くほぼ全てのイネ科植物の地上部表皮には二細胞性の小毛が存在し,その分泌能力には種によって差があるが,特にヒゲシバ亜科において活発に塩を排出する塩腺として機能するものがある.この二細胞性の塩腺は微小でありながらも特徴的な内部構造を有し,効率的に塩を収集・排出していると考えられている.塩腺は植物個体の耐塩性に加え,土壌中の塩や重金属を地上に排出するという物質循環にも貢献しており,植物体中のミネラル含有率を調整する機能を介して作物品質にも寄与し得ると考えられる.イネ科植物には重要な食用作物や牧草が数多く含まれていることから,塩腺として働く小毛に関する知見は様々な作物の耐塩性研究への応用が期待される.本総説ではイネ科植物にみられる塩腺の構造と機能についてこれまでに得られた知見を総合的に解説する.