2021 年 90 巻 4 号 p. 401-407
コムギ品種「せときらら」は,製パン適性に優れた西日本向けの多収品種である.窒素肥料を多施することで収量が高まるものの,子実タンパク質含有率が低下してしまうことが問題となっている.後期重点型の窒素施肥により,多収化したうえで高タンパク化できることが知られているが,これを安定化させるためには収量性や窒素の吸収・転流といった動向について「せときらら」の品種特性を明らかにする必要がある.そこで,本研究では,3ヵ年にわたって「せときらら」を「ニシノカオリ」,「農林61号」と栽培・比較し,穂肥と開花期追肥の影響について調査した.穂肥は,「せときらら」が,開花期までに「ニシノカオリ」,「農林61号」よりも多くの窒素を栄養器官に蓄積することで,全乾物重,子実収量を高めた.栄養器官の窒素は成熟期までに子実に転流し,子実タンパク質の蓄積に貢献したが,「せときらら」は,「ニシノカオリ」,「農林61号」と比べて,開花期前に多く吸収したために開花期以後の地中からの吸収量が少なかった.このため,「せときらら」は子実収量が多くなった分,子実タンパク質含有率は低下した.「せときらら」は,子実タンパク質含有率を高めるためには開花期において収量性を見極めたうえで十分な窒素追肥を必要とすると考えられた.