日本作物学会紀事
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90 巻, 4 号
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総説
  • 東江 栄, 佐藤 稜真, 齋藤 和幸, 諸隈 正裕
    2021 年90 巻4 号 p. 373-381
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    塩害は作物生産を低下させる大きな要因である.近年は特に人為的な塩害が問題になっている.今後,増大する世界的な食料需要を満たすためには,塩類集積土壌のような耕作不適地を含めた農地の拡大が必要である.塩生植物は海岸砂丘,塩湖岸及び内陸の塩湿地等に生育する耐塩性の高い植物であり,塩害地における新しい作物として期待される.20世紀後半から進められた体系的な研究により,塩生植物が食用,飼料,油糧,バイオ燃料,医療,及びファイトレメディエーション等に利用できることがわかってきた.耐塩性植物の塩に対する適応機構を解明することで,作物の耐塩性を向上させるための重要な知見が得られる.また,耐塩性の高い植物を活用する塩水農業は,塩類集積土壌において農業生産を行う上で有効である.本総説では,塩生植物の機能及び農業利用に関する国内外の事例を紹介し,塩生植物の遺伝子資源及び代替作物としての可能性を考察する.

研究論文
栽培
  • 荻原 均, 大下 泰生
    2021 年90 巻4 号 p. 382-392
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    水稲の乾田直播体系では,苗立ちを安定化させるために2~3 cmに播種することが多くのマニュアルで指導されている.この数値は,経験的に得られたものであり,イネの生態的特性との関係は未詳であった.本研究では,コシヒカリを用いて,圃場にディスク駆動式汎用不耕起播種機で播種したイネ幼植物の中茎,鞘葉,第1葉などの長さを計測し,苗基部の非緑化部から推定した播種深度との関係を解析した.中茎,鞘葉,第1葉,第2葉の葉鞘と葉身の長さは,播種から調査日までの積算温度との相関はない一方,播種深度とは有意な相関が見られた.鞘葉長,第1葉長,第2葉葉鞘長それぞれに中茎長を加算した値と播種深度との関係を検討した結果,播種深度3 cmを超えると鞘葉や第1葉が地表に届かない個体が目立って増え始め,おおむね4 cmに達すると,ほとんどの個体で鞘葉と第1葉が地表面に達していなかった.また,人工気象器を用いた試験においては,温度と水分条件が出芽苗立ちに好適な条件であっても播種深度が5 cmを越えると鞘葉または第1葉が地表に届かなくなり,苗立ち率が著しく低下した.乾田直播栽培の各種体系において実践されている播種深度は,イネの出芽器官である鞘葉もしくは第1葉が地表面に届く限界値という品種特性によって規定されていることが明らかとなった.

  • 福嶌 陽
    2021 年90 巻4 号 p. 393-400
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    わが国の水稲栽培に関して,生育期間別の気温・日射量,および収量・収量構成要素に関するデータを年代別・地域別に整理し,その相互関係について解析した.41道府県の1963~1967年,1988~1992年,および2014~2018年の各年代について,気象庁が公表している気象データおよび農林水産省が公表している収量データを用いた.出穂29日前~出穂日の平均気温をT2,平均日射量をS2,出穂1~30日後平均気温をT3,平均日射量をS3として算出した.これらの気象要因の中で,T2が収量と最も関連が深かった.すなわち,いずれの年代においても,T2が低い道府県は, 総籾数が多く,収量が高いという関係が認められた.年代間を比較すると,気温が低い道府県は収量が高いという関係が経年的に強くなった.このことから,水稲栽培の技術レベルが全国的に向上したこと,および生育期間の気温が上昇したことにより,収量の地域間差異を決める上での高温の負の寄与度が経年的に増していることが示唆された.一方,各道府県においては,T2が高い年次が,S2も多く,収量は高い傾向が示された.このことから,地球温暖化によって気温が高くなっても,それに伴い日射量も増加すれば,収量は必ずしも低下するとは限らない可能性も示された.

  • 高橋 肇, 稲葉 俊二, 内田 多江子, 鎌田 英一郎, 荒木 英樹
    2021 年90 巻4 号 p. 401-407
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    コムギ品種「せときらら」は,製パン適性に優れた西日本向けの多収品種である.窒素肥料を多施することで収量が高まるものの,子実タンパク質含有率が低下してしまうことが問題となっている.後期重点型の窒素施肥により,多収化したうえで高タンパク化できることが知られているが,これを安定化させるためには収量性や窒素の吸収・転流といった動向について「せときらら」の品種特性を明らかにする必要がある.そこで,本研究では,3ヵ年にわたって「せときらら」を「ニシノカオリ」,「農林61号」と栽培・比較し,穂肥と開花期追肥の影響について調査した.穂肥は,「せときらら」が,開花期までに「ニシノカオリ」,「農林61号」よりも多くの窒素を栄養器官に蓄積することで,全乾物重,子実収量を高めた.栄養器官の窒素は成熟期までに子実に転流し,子実タンパク質の蓄積に貢献したが,「せときらら」は,「ニシノカオリ」,「農林61号」と比べて,開花期前に多く吸収したために開花期以後の地中からの吸収量が少なかった.このため,「せときらら」は子実収量が多くなった分,子実タンパク質含有率は低下した.「せときらら」は,子実タンパク質含有率を高めるためには開花期において収量性を見極めたうえで十分な窒素追肥を必要とすると考えられた.

  • 石丸 知道, 荒木 雅登, 荒木 卓哉
    2021 年90 巻4 号 p. 408-413
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,中華めん用コムギ品種「ちくしW2号」における慣行の追肥体系(以下,分施)である分げつ肥(1月下旬施肥,分げつ期)+穂肥(3月上旬施肥,茎立期)+穂揃期追肥(穂揃期施肥)の3回施肥を分げつ期のみの1回施肥とする省力施肥法を確立することを目的とした.最初に,分げつ期に施肥した肥効調節型肥料の被覆尿素シグモイド型エムコート20日タイプ(以下,S20)の生育期間別窒素溶出量およびコムギへの肥料効果を明らかにした.次に,速効性肥料と肥効調節型肥料の配合肥料が,生育,収量,品質に及ぼす影響を検討した.S20を分げつ期に埋設した場合,累積の窒素溶出量が,基準の穂肥窒素量と同等となる時期は,基準の穂肥時期である茎立期より遅い止葉抽出期~開花期頃であった.そこで,重窒素標識硫安を用いて,茎立期または止葉抽出期に穂肥を施肥し,穂肥由来のコムギ植物体中の窒素含有量,穂肥の施肥窒素利用率,コムギの収量,品質を調査した.その結果,穂肥由来のコムギ植物体中の窒素含有量,穂肥の施肥窒素利用率に施肥時期による差は認められず,穂数,収量,子実タンパク質含有率も同程度であった.このことから,分げつ期にS20を施肥することで穂肥として利用できると考えられた.分施の穂揃期追肥窒素量と比べると,S20の止葉抽出期~出穂期後24日頃の窒素溶出量はやや少なかった.しかし,速効性窒素肥料 3 g m–2とS20 8 g m–2およびクミアイグッドI B粒33 1 g m–2の配合肥料を分げつ期に施肥した結果,子実タンパク質含有率は12%以上を確保でき,生育,収量も分施と同等であった.以上から,この施肥法は分げつ期の1回追肥で,穂肥と穂揃期追肥を省略できると判断された.

  • 垣内 仁
    2021 年90 巻4 号 p. 414-422
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    倒伏軽減技術の一つとして利用されている摘心がダイズの生育や収量,収量構成要素に及ぼす影響の品種間差について明らかにするため,6品種を用いて2か年実験を行った.圃場条件下で栽培し,摘心区はV9-10期あるいはV14期前後にいずれも主茎第7節と第8節の間辺りを切除した.成熟期に主茎および分枝の各節毎に莢数,子実数,子実重を測定した.処理間で倒伏程度に大きな差はみられなかったが,収量はことゆたか以外の品種で摘心区の方が無摘心区よりも少なかった.稔実莢数と子実収量との間には正の相関が認められたが,ことゆたか以外の品種では摘心によって稔実莢数が減少した.タマホマレ,ふくいぶき,ことゆたかでは無摘心区に比べて摘心区の方が分枝に着生する莢数が多い傾向であったが,タマホマレとふくいぶきは主茎の減少分を補償しきれなかった.ことゆたかは主茎低次位節の多くでそこから発生する分枝節数や1節当たり莢数が摘心によって多くなり,個体全体の稔実莢数が無摘心区と同等に保たれた.以上から,摘心に対する反応には品種間差があり,摘心によって収量が減少しないあるいは増加が期待できる品種は,低次位の分枝節数やその1節当たり莢数の増加により個体当たり莢数を確保する能力を持つと考えられた.

  • 内田 多江子, 高橋 肇, 稲葉 俊二, 吉岡 藤治, 高橋 飛鳥, 杉田 知彦, 荒木 英樹, 水田 圭祐
    2021 年90 巻4 号 p. 423-429
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    オオムギ品種「キラリモチ」は,後期重点型追肥区(窒素成分で元肥:4 g m–2,分げつ肥:2 g m–2,穂肥:6 g m–2,開花期追肥:6 g m–2,4-2-6-6)で窒素を穂肥期や開花期に追肥することで,対照区(4-2-0-0)に比べて穂数が増加して収量が増加するものの,収穫期でも未成熟の分げつが多くみられる.穂肥を施用せずに分げつ肥を増施する分げつ肥増施区(4-8-0-6)を設定することで,早くに有効分げつ数を確保して,これよりも遅く発生する分げつの発生を少なくしようと試みた.さらにこれら分げつがどのように有効化・無効化していくのかについて,茎数・穂数を定点観察することで調査した.分げつ肥増施区(4-8-0-6)は,収量,収量構成要素ならびに全重とも後期重点型追肥区(4-2-6-6)とほぼ同じであった.茎数は,後期重点型施肥区(4-2-6-6),分げつ肥増施区(4-8-0-6)とも開花期まで同様に推移し,分げつ肥を増施しても大きく増加することはなかった.開花期以降,さらに茎数が増加し,穂数も成熟期までに倍増した.分げつ肥増施区(4-8-0-6)では開花期後2週目以降にとくに遅れて出穂する分げつがみられた.有効茎の稈長は600 mmを境に大きく2分され,後期重点型施肥区(4-2-6-6)と分げつ肥増施区(4-8-0-6)には稈長600 mm未満のものが対照区(4-2-0-0)に比べて多かった.

収量予測・情報処理・環境
  • 屋比久 貴之, 浪川 茉莉, 長谷川 利拡
    2021 年90 巻4 号 p. 430-443
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    業務用米の栽培には低コスト,多収性が求められ,土壌条件や生育状況に応じた効率的な施肥管理が望まれる.近年リモートセンシングで生育状況を捉える研究は多いが,その情報を効果的に施肥管理情報に翻訳するシステムの開発は遅れている.本研究では,センシング情報を活用した施肥管理支援の提供を目的に,窒素管理のための簡易生育・収量予測モデルの開発を目的とした.そのため2017,2018年に,黒ボク土,沖積土の2土壌型および3段階の窒素施肥条件下で多収・良食味の業務用米品種ゆみあずさと普及品種のあきたこまちの生育・収量性を比較するとともに,窒素施肥量の決定に利用可能な簡易生育・収量予測モデルを構築した.両年において乾物重,窒素吸収量,収量には年次,土壌,窒素施肥効果がみられた.いずれの条件でもゆみあずさの多収性が示され,特に生育前半に有利な受光態勢がその主因と考えられた.葉面積指数(LAI)増加速度と窒素吸収速度は密接な関係があったことから,両者の関係性に基づく簡易生育モデルを構築した.パラメータの交差検証の結果,モデルの予測精度は,地上部乾物重では両年で決定係数0.98と高かったことから,異なる土壌,品種,年次においても,リモートセンシングで比較的容易に計測できるとされるLAI,窒素吸収量から,乾物生産の高精度な予測が可能なことが示された.ただし,粗籾収量の決定係数は2017年の0.91に対し2018年では0.83とばらつきが見られ,モデルにおける収穫指数の扱いについては課題が残った.

  • 村田 資治, 稲村 達也
    2021 年90 巻4 号 p. 444-450
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    携帯型NDVIセンサー (GreenSeeker Handheld Crop Sensor) を用いて2種類の測定方法 (ワイパー法と直線法) でダイズ群落の正規化植生指数 (NDVI) を測定し,NDVIによる受光率の推定に測定方法が及ぼす影響を検証した.試験は2019年に山口県農林総合技術センターで行った.ダイズ群落の栽植密度は2,5,10,15および30本 m–2 とした.ワイパー法は畝を交差するようにセンサーを動かしてNDVIを測定する方法とし,直線法は畝上のみを測定する方法とした.NDVIの測定は苗立ち後から子実肥大期までの間に9回行った.NDVIの測定と同日に光合成有効放射測定装置で受光率を測定した.受光率とNDVIの関係を調べたところ,直線回帰によってNDVIから受光率を推定する場合はワイパー法の方が直線法よりも誤差が小さいことが明らかとなった.NDVIから推定した受光率を使用して算出した日射利用効率は,直線法では2本 m–2 を除いて過小評価されたが,ワイパー法では実測値とほぼ一致した.以上のことから,ダイズ群落において携帯型NDVIセンサーで測定したNDVIから受光率の推定を行う場合,直線法よりもワイパー法の方が精度が高いことが明らかとなった.

研究・技術ノート
  • 池上 勝, 礒野 幸浩, 藤本 啓之, 加藤 雅宣, 杉本 琢真, 髙橋 圭, 奥田 将生
    2021 年90 巻4 号 p. 451-456
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    兵庫県産酒米品種において,酒造り前に消化性の予測情報を提供することを目的に,酒米品種「山田錦」,「五百万石」,「兵庫北錦」および「杜氏の夢」 について,酒米の原料米統一分析法における消化性(Brix)と登熟期間の気温との関係を検討した.消化性は全ての品種で登熟期の気温と有意な強い負の相関が認められた.「山田錦」では,出穂後8日目(出穂期を1日目とする)~29日目までの22日間の最高気温と消化性との相関が最も強く,単回帰分析での決定係数は0.97,二乗平均平方根誤差は0.13であり,消化性の変動はほぼこの期間の最高気温の変動で説明できた.「五百万石」で最も強い相関が認められた気温条件とその相関係数は,それぞれ出穂後5日目~27日目までの23日間の最高気温で–0.908であり,「兵庫北錦」では出穂後11日目~22日目までの12日間の平均気温で–0.957,「杜氏の夢」では出穂後6日目~28日目までの23日間の最高気温で–0.892であった.これらの相関は,既報の出穂後30日間の平均気温と消化性との相関よりも強かった.また気温と消化性の回帰式から,「山田錦」の消化性について平年値との比較区分を提示した.

  • 白土 宏之, 伊藤 景子, 大平 陽一, 今須 宏美, 川名 義明
    2021 年90 巻4 号 p. 457-465
    発行日: 2021/10/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    水稲無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種栽培の播種早限の前進のために,春先に融雪水を用いて播種する栽培法の可能性を苗立ちや生育,収量の点から検討した.2014〜2017年に秋田県において,耐倒伏性の強い水稲品種「萌えみのり」を用いて,融雪水を利用して3月下旬〜4月上旬に乾燥種子を播種する融雪水区,4月下旬に催芽種子を播種する早期区,慣行の5月中旬に催芽種子を播種する普通期区を設けた.融雪水区は基肥窒素肥料に被覆尿素肥料のみを用いるとともに,2014年を除き総施肥窒素量を普通期区より増やした.また十分な苗立数を得るために,苗立数が多くても倒伏程度が軽い品種特性を活かして,播種量を早期区や普通期区以上の約9 g m–2とした.融雪水区の苗立率は早期区と同程度で普通期区よりやや低かったが,苗立数は他の2区より多い傾向であった.5月下旬の融雪水区の葉齢は早期区より0.3葉小さかったが,草丈や茎葉乾物重に差はなかった.融雪水区は普通期区と比べて,出穂期は4日,成熟期は5日早かった.融雪水区は普通期区に比べて,出穂期の乾物重は小さい傾向であり,窒素量は同程度であったが,成熟期の乾物重と窒素量は大きい傾向であった.融雪水区の精玄米重は795 g m–2で普通期区の756 g m–2と同等以上であった.以上,耐倒伏性品種と被覆尿素肥料を使用し,施肥窒素量と播種量を普通期区より増加させた条件では,融雪水播種でも普通期播種と同程度の苗立数と収量が得られ,雪融け直後まで播種早限を前進できる可能性が示された.

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