2021 年 90 巻 4 号 p. 408-413
本研究では,中華めん用コムギ品種「ちくしW2号」における慣行の追肥体系(以下,分施)である分げつ肥(1月下旬施肥,分げつ期)+穂肥(3月上旬施肥,茎立期)+穂揃期追肥(穂揃期施肥)の3回施肥を分げつ期のみの1回施肥とする省力施肥法を確立することを目的とした.最初に,分げつ期に施肥した肥効調節型肥料の被覆尿素シグモイド型エムコート20日タイプ(以下,S20)の生育期間別窒素溶出量およびコムギへの肥料効果を明らかにした.次に,速効性肥料と肥効調節型肥料の配合肥料が,生育,収量,品質に及ぼす影響を検討した.S20を分げつ期に埋設した場合,累積の窒素溶出量が,基準の穂肥窒素量と同等となる時期は,基準の穂肥時期である茎立期より遅い止葉抽出期~開花期頃であった.そこで,重窒素標識硫安を用いて,茎立期または止葉抽出期に穂肥を施肥し,穂肥由来のコムギ植物体中の窒素含有量,穂肥の施肥窒素利用率,コムギの収量,品質を調査した.その結果,穂肥由来のコムギ植物体中の窒素含有量,穂肥の施肥窒素利用率に施肥時期による差は認められず,穂数,収量,子実タンパク質含有率も同程度であった.このことから,分げつ期にS20を施肥することで穂肥として利用できると考えられた.分施の穂揃期追肥窒素量と比べると,S20の止葉抽出期~出穂期後24日頃の窒素溶出量はやや少なかった.しかし,速効性窒素肥料 3 g m–2とS20 8 g m–2およびクミアイグッドI B粒33 1 g m–2の配合肥料を分げつ期に施肥した結果,子実タンパク質含有率は12%以上を確保でき,生育,収量も分施と同等であった.以上から,この施肥法は分げつ期の1回追肥で,穂肥と穂揃期追肥を省略できると判断された.