津波浸水被害地域の圃場では,浸水被害に加え灌漑・排水施設等の損壊もあり作物の生育を阻害する要因が多く含まれる.本研究は,津波浸水被害後の東松島市および名取市の圃場において,イネ-ムギ-ダイズ2年3作体系におけるコムギ生育の安定多収化を目的として,越冬前追肥の効果を検討した.供試品種は,「銀河のちから」および「シラネコムギ」とした.その結果,越冬前追肥によって越冬後の茎数,穂数,稈長および地上部乾物重が増加する傾向がみられた.しかし,効果の発現程度は年次,圃場,圃場内で異なっていた.これには気象条件に加え,土壌特性等の要因が大きく関与していると考えられた.また,越冬前追肥で品質が低下する可能性は低いと考えられた.従って,寒冷地のコムギ作圃場において追肥の効果は一様ではないが,特に播種直後の生育が不良の場合,越冬後の生育を促し,子実重を確保する手段の1つとして,越冬前追肥は重要であると考えられた.