日本作物学会紀事
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91 巻, 4 号
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研究論文
栽培
  • 石丸 知道, 荒木 雅登
    2022 年91 巻4 号 p. 275-279
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    食糧用二条オオムギにおける省力施肥体系を構築するために,重窒素標識硫安 (以下,15N標識硫安) を用いて,オオムギ植物体中の地力および各施肥に由来する窒素含有量と窒素寄与率,各施肥に由来する窒素利用率を明らかにした.基肥5 g m–2に由来する窒素含有量は1.52~1.80 g m–2,分げつ肥4 g m–2に由来する窒素含有量は2.58~2.60 g m–2,穂肥4 g m–2に由来する窒素含有量は2.62~3.25 g m–2,地力に由来する窒素含有量は4.90~5.82 g m–2で,地力に由来する窒素含有量は各施肥に由来する窒素含有量と比べて多かった.子実含有窒素における窒素寄与率は,基肥が12~14%,分げつ肥が20~21%,穂肥が21~27%であったのに対して,地力は40~45%と最も高く,地力に由来する窒素の重要性が示唆された.各施肥の窒素利用率は,基肥が30~36%と最も低く,分げつ肥は65%,穂肥は66~81%と追肥で高かった.成熟期におけるオオムギ植物体中の子実部の窒素構成比は86~87%で,そのうち54~60%が施肥に由来する窒素であった.オオムギの施肥は生育前半に施用する体系であり,子実部の施肥に由来する窒素構成比が54~60%と高いことから,省力施肥体系の構築にあたっては,生育前半に窒素が溶出する肥効調節型肥料を選定することで,収量が安定的に確保できると考えられる.なお,総窒素施肥量13 g m–2に対して,成熟期でのオオムギ植物体中の全窒素含有量は12.27~12.82 g m–2であった.

  • 見野 百萌, 永吉 智己, 桂 圭佑, 安達 俊輔, 和気 仁志, 大川 泰一郎
    2022 年91 巻4 号 p. 280-290
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    サトイモは乾燥に弱く,高収量達成のためには特に夏季の灌水が重要となるが,生産現場では灌水のための労力および水源の確保に課題がある.これを解決する栽培法の一つに,省力,節水型の灌水方法である点滴灌漑がある.そこで,2018年から2020年の3年間,無灌漑区,朝30分間点滴灌漑区および朝夕各30分間点滴灌漑区を設け,処理区間の生育,乾物生産および収量の相違を比較し,さらに水分生理学的特性に着目して要因を解析した.その結果,無灌漑区に比較して両点滴灌漑区ともに梅雨明け後の土壌水分が高く保たれ,地上部の草高,葉面積および乾物生産量が大きくなり,生育後期の塊茎生産速度および収穫時の塊茎収量が増加した.その生理生態的要因として,梅雨明け後の根系が発達し吸水速度が大きくなり,葉の水ポテンシャルが日中高く維持され,梅雨明け後の高温下でも気孔をよく開き,高い光合成速度を維持していたことが示された.これらの結果から,点滴灌漑による土壌水分制御は,温暖化により頻発する夏季の干ばつを回避させ,効果的に無灌漑下よりもサトイモの乾物生産および塊茎収量を増加させることが明らかとなった.また,朝30分間点滴灌漑だけでも朝夕各30分間点滴灌漑と同程度の増収効果があることが示された.

  • 鈴木 健策, 柏木 純一, 中島 大賢, 長菅 輝義, 望月 俊宏, 安彦 友美, 古畑 昌巳, 大平 陽一, 千葉 雅大, 木村 利行, ...
    2022 年91 巻4 号 p. 291-302
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    水稲の初冬直播き栽培の広域適応性を明らかにするため,全国11地点において同一採種地・採種年の共通種子を用い,播種時期ならびに種子コーティングが出芽率に及ぼす影響を2シーズン評価した.種子コーティングを行わない無処理では,初冬直播きの出芽率が春播きより低かったものの,種子コーティングを行うことで向上,その差は縮小した.初冬直播きの播種時期と出芽率の関係に着目すると,東北地方の青森県,岩手県,秋田県,山形県,福島県で10月と11月に明瞭な違いが認められない一方,北海道で10月播種が11月播種より出芽率が高く,逆に新潟県で11月播種が10月播種より高かった.温暖な地域では1月播種が11月播種より出芽率が高かった.また播種から出芽までの掘り取り調査における種子の発芽能の推移から,種子コーティングを行うことで発芽能は維持されることを明らかにした.しかし春まで生存した種子の最終的な出芽率は2018/19年が平均で55%,2019/20年が69%だった.両シーズンを比べると,2018/19年はより暖冬傾向で,雪が少なかった2019/20年は11地点中8地点で出芽率が高い傾向だった.いずれの地域でも出芽率の最大値が39~86%となり,実用化の目標とした35%を超えた.以上,2シーズンの11地点の連携試験より,初冬直播きは,従来可能とされてきた温暖な地域に加えて,種子コーティングを行えば寒冷な地域にも適応でき,適切な条件下では実用可能なレベルの出芽率を得ることが可能で,広域適応性はあると結論した.

  • 福嶌 陽
    2022 年91 巻4 号 p. 303-314
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    水稲栽培において多収と高品質を両立することを目指して,北関東地域において,多収・高品質の新品種「にじのきらめき」と普及品種「コシヒカリ」について,普通期移植区および晩期移植区における早期追肥区,標準期追肥区,および無追肥区の条件下で,収量性を2年間比較した.「にじのきらめき」は「コシヒカリ」と比較して,穂揃期の全乾物重に差異は認められず,総籾数は少なかったが,千粒重がかなり重いためシンク容量がやや重かった.そして,「にじのきらめき」は「コシヒカリ」より,シンク容量がやや重いにも係わらず登熟歩合が高いために精玄米重がかなり重かった.その一因として,「にじのきらめき」は登熟期間が長い可能性が挙げられた.精玄米重は,追肥によってかなり増加し,追肥区の中では早期追肥区より標準期追肥区がやや重かった.追肥によって多収となる要因として,いずれの追肥法もシンク容量が重いことに加え,標準期追肥区においては登熟期間の葉色値が高いことが挙げられた.普通期移植区と比較して晩期移植区は,2020年は総籾数がかなり多いが登熟歩合がかなり低いため精玄米重は同等で,2021年は総籾数が少なく登熟歩合も低いため精玄米重がかなり軽いことが示された.

  • 細井 淳, 岡村 昌樹, 長田 健二, 小林 伸哉, 近藤 始彦, 小松 晃, 中込 弘二, 前田 英郎
    2022 年91 巻4 号 p. 315-321
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    水稲極多収品種「北陸193号」およびこの品種の後代2系統を供試し,国内最多収地帯である長野県内の低暖地で3年間にわたり栽培試験を行った.それらの生育,乾物生産特性,収量および収量構成要素について比較検討した.生育良好な複数年次において,粗玄米収量約1200 g m–2を実証した時の収量形成に関する詳細が明らかとなった.新規2系統は栄養成長期間の短縮に伴い地上部全乾物重は小さく,穂揃期までに茎部に蓄積した非構造性炭水化物の含有量と登熟期の乾物増加の和で表される登熟期間に穂に供給可能な炭水化物の総量は少なくなる傾向にあった.「北陸193号」と比較した収量構成要素において,系統Aでは全籾数が多いが,精玄米千粒重が軽いため,両者の積で表されるシンク容量は同等かわずかに小さかった.登熟歩合も「北陸193号」より同等かわずかに低く,その結果,精玄米収量は少なかった.一方,系統Bでは全籾数は同等で,精玄米千粒重が重く,シンク容量が増加していたが,登熟歩合は低かった.その結果,系統Bは早生化により生育期間が短いにもかかわらず「北陸193号」と同等の収量を示し,登熟期の低温回避の観点から有望と判断された.

品種・遺伝資源
  • 笠島 真也, 山田 翔太, 伊藤 博武, 大西 志全, 神野 裕信, 高橋 肇
    2022 年91 巻4 号 p. 322-327
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    秋播性多収コムギ品種「きたほなみ」は,国内生産量の5割以上を占める北海道の基幹品種である.本研究では,「きたほなみ」の多収要因を登熟生理の点から明らかにするため,2014/2015年と2015/2016年の2作期にわたって「きたほなみ」と旧品種「ホクシン」を栽培し,登熟期間を通じて器官別・部位別の乾物重ならびに窒素蓄積量を調査した.子実収量は,2014/2015年では「きたほなみ」が「ホクシン」よりも有意に多く,「きたほなみ」の単位面積当たり粒数を多く確保できたことが要因であった.また,2015/2016年では「きたほなみ」の一穂の着粒数が少なかったが,粒重が増加することで多収となった.「きたほなみ」は,地上部乾物重が出穂期から成熟期にかけて直線的に増加したのに対し,「ホクシン」では乳熟期前後に大きく増加し,その後の増加量は少なかった.このため,CGRは「きたほなみ」が「ホクシン」に比較して登熟の前半で低く,後半では高かった.「きたほなみ」は,子実窒素含有率が登熟後半で低かったことから,2014/2015年では子実の窒素含有量が低く推移した.また,子実タンパク質含有率が低下しやすい品種特性も登熟期間の窒素代謝の観点から明らかになった.

  • 鬼頭 誠
    2022 年91 巻4 号 p. 328-336
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,沖縄県でソバ栽培が行われない5月から9月に雑草防除や土壌流亡の軽減を目的とした3種緑肥作物(クロタラリア属のジュンシアとスペクタビリスおよびセスバニア属のロストラータ)の生育量とソバに対する肥料効果を緑肥間で比較した.生育量と各種成分含有量はスペクタビリスで小さく,ジュンシアとロストラータは同程度であった.ただし,マグネシウム含有量はロストラータよりジュンシアで明らかに大きかった.緑肥施用後の無施肥で栽培した10月播きソバの生育量と子実重は概ね緑肥の施用量に応じており,特にロストラータを施用した場合には緑肥無施用で化学肥料を施肥した場合と同程度であった.10月播きソバ栽培後に全ての処理区に同量の化学肥料を施肥して栽培した2月播きソバでは化学肥料区より緑肥施用区で生育量と子実重が高まる傾向が見られ,特にロストラータを施用した場合にその傾向が強かった.また,10月播きソバの播種54日後における初花節葉のSPAD値は緑肥施用区で化学肥料区より有意に高くなっており,子実の窒素含有率との有意な高い相関が認められた.緑肥施用区では無機態窒素の発現が化学肥料区より緩効化されるために生育後期まで窒素供給が持続することで側枝と側枝子実の発達が促されることが考えられた.

研究・技術ノート
  • 石丸 努, 大平 陽一, 岡村 昌樹, 山口 弘道, 古畑 昌已, 吉永 悟志
    2022 年91 巻4 号 p. 337-345
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    前報では北陸地域の水稲品種「つきあかり」において,精玄米重750 g m–2 の収量限界を達成するためには籾数35.7千粒 m–2 を確保する重要性を示した.本報では北陸地域において,多収と良食味を両立可能な穂揃期における窒素栄養状態や,籾数35.7千粒 m–2 を達成するために必要な穂首分化期における生育量と穂肥窒素量との関係を検討した.籾数35.7千粒 m–2 を達成した場合,穂揃期における地上部窒素吸収量の理論値は13.4 g m–2,玄米タンパク質含有率との相関が有意である葉色(SPAD値)の理論値は41.9であった.穂首分化期では生育指標値「草丈 (cm)× 茎数(本 m–2)× SPAD値」 は地上部窒素吸収量などの諸形質と密接な正の相関関係があり,各形質の相互関係は回帰直線で表すことができた.穂首分化期における携帯型の正規化植生指数(NDVI)測定機によるNDVI値は0.26~0.75で,この範囲では生育指標値と密接な相関関係があることから,北陸地域の「つきあかり」栽培では,穂首分化期の生育量推定に携帯型NDVI測定機を利用できることが示された.同時に,携帯型NDVI測定機ではNDVI値が湛水深により大きく影響を受けるが,湛水深に応じてNDVI値を補正し,穂首分化期の生育量を推定できることを明らかにした.

  • 池永 幸子, 氷見 英子, 伊藤 裕之, 谷口 義則, 大谷 隆二
    2022 年91 巻4 号 p. 346-355
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    津波浸水被害地域の圃場では,浸水被害に加え灌漑・排水施設等の損壊もあり作物の生育を阻害する要因が多く含まれる.本研究は,津波浸水被害後の東松島市および名取市の圃場において,イネ-ムギ-ダイズ2年3作体系におけるコムギ生育の安定多収化を目的として,越冬前追肥の効果を検討した.供試品種は,「銀河のちから」および「シラネコムギ」とした.その結果,越冬前追肥によって越冬後の茎数,穂数,稈長および地上部乾物重が増加する傾向がみられた.しかし,効果の発現程度は年次,圃場,圃場内で異なっていた.これには気象条件に加え,土壌特性等の要因が大きく関与していると考えられた.また,越冬前追肥で品質が低下する可能性は低いと考えられた.従って,寒冷地のコムギ作圃場において追肥の効果は一様ではないが,特に播種直後の生育が不良の場合,越冬後の生育を促し,子実重を確保する手段の1つとして,越冬前追肥は重要であると考えられた.

  • 板谷 恭兵, 大角 壮弘, 澤田 寛子, 水本 晃那, 福嶌 陽
    2022 年91 巻4 号 p. 356-364
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/10
    ジャーナル フリー

    コムギ品種「さとのそら」の地上部乾物重や地上部窒素含量 (以下,窒素含量) を推定する指標として,携帯型作物生育センサーのGreenSeeker Handheld Crop SensorによるNDVI,分光器のカラーコンパスMFから算出したNDVI,GNDVI,SR,CIgreenおよびデジタルカメラを用いた植被率の6種類の植生指標の推定精度を比較した.これらの指標から分げつ期と茎立ち期の地上部乾物重および窒素含量の推定式を作成したところ,地上部乾物重の推定精度は植被率が最も高く,次いでGNDVIとCIgreenが高く,NDVIよりも優れていた.窒素含量についても,生育量が大きくなる茎立ち期において,NDVIよりも植被率,GNDVIおよびCIgreenの推定精度が高かった.このうち,CIgreenは茎立ち期でも値が頭打ちとならず,生育量の大きい時期の窒素含量の推定により適することが示唆された.一方,植生指標の生育に伴う推移をみたところ,植被率は調査期間を通して一貫して増加したのに対し,他の植生指標は生育の早い時期の土壌が乾燥した条件で値が低下する傾向がみられた.そのため,スペクトル情報を用いた指標については,土壌の乾湿条件等の測定環境に対する不安定さを改善できれば,より推定精度を高められると考えられた.

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