出穂から収穫適期 (収量のみならず,玄米品質や籾水分も考慮に入れて収穫可能となる時期) までの長さ,すなわち登熟期間は水稲の生産性を決める重要な形質の1つである.しかし収穫適期の客観的な判断が困難であるため,登熟期間の品種間差をもたらす要因については不明な点が多い.そこで本研究では収穫適期の指標のひとつである黄化籾率を画像解析により客観的に測定する方法を開発し, 黄化籾率に基づく登熟期間の品種間差をもたらす要因を解明することを目的とした.水稲品種「コシヒカリ」と籾数の異なる準同質遺伝子系統,および遺伝背景が近いにもかかわらず登熟期間の異なる「やまだわら」と「えみだわら」を用いて,籾数と籾重推移および登熟期間の関係を解析したところ,準同質遺伝子系統では籾数が増えても千粒重が減り,籾重増加期間や登熟期間に差はなかった.「やまだわら」と「えみだわら」では,両者の品種間差は籾数の差で説明できるようであった.しかし低窒素条件により籾数が減っても籾重増加期間と登熟期間は変わらなかった.以上から籾数が登熟期間の決定要因とならない場合があることが示された.一方で,穂ごとの解析では,黄化が開始している穂は籾重増加がほぼ完全に停止していた.また年次間差も考慮にいれると,登熟期間は籾重増加期間よりもむしろ,籾重の増加停止から成熟までの期間と相関があり,この期間も登熟期間の決定要因となりうることが示唆された.