日本作物学会紀事
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研究論文
栽培
  • 宮崎 美南, 関口 小百合, 鷹木 希世, 小西 湧希, 秋本 正博
    2024 年 93 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    摘芯は,倒伏の抑制や分枝の成長促進に効果的な栽培管理法である.本研究では,異なる生育ステージのエゴマに摘芯を行い,その後の生育や収量を比較することで,十勝地方のエゴマ栽培における摘芯の有効性の評価と処理を行う適切な生育ステージの検討を行った.エゴマ在来品種「北海道在来」を栽培した圃場を4区画に分け,それぞれを摘芯を行わない無処理区,摘芯を本葉が第8節,第10節まで展開した時,および主茎で花芽分化が始まった時に行う,V8区,V10区, R区とした.無処理区と比較し,V8区とV10区では一次分枝が少ないものの,分枝1本当たりの花序が多かった.これは,摘芯によって頂芽優勢が失われたことや,分枝当たりの資源配分量が増加したことに起因すると考えられる.無処理区とV10区の間には,総小花数に大きな差が認められなかった.また,無処理区と比較し,V8区とV10区では主茎が短くかつ頂部に花序を形成しないことから倒伏の程度が低かった.一方で,無処理区とR区の間には,株の草型や倒伏の程度に大きな差が認められなかった.子実収量と油収量については試験区間に大きな差が認められなかったが,機械収穫を行う実際の生産現場では,倒伏の程度が高かった無処理区とR区の値が収穫ロスにより本研究の結果より低くなると推測される.摘芯は十勝地方におけるエゴマの生産の安定化に有効であり,分枝の発達による花序数の維持や倒伏の軽減の面から,摘芯を行う最適な生育段階は主茎の本葉が10節まで展開した時と結論づけられる.

作物生理・細胞工学
  • 岡村 昌樹, 荒井 (三王) 裕見子, 大平 陽一, 石川 淳子, 小林 伸哉
    2024 年 93 巻 1 号 p. 9-23
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    出穂から収穫適期 (収量のみならず,玄米品質や籾水分も考慮に入れて収穫可能となる時期) までの長さ,すなわち登熟期間は水稲の生産性を決める重要な形質の1つである.しかし収穫適期の客観的な判断が困難であるため,登熟期間の品種間差をもたらす要因については不明な点が多い.そこで本研究では収穫適期の指標のひとつである黄化籾率を画像解析により客観的に測定する方法を開発し, 黄化籾率に基づく登熟期間の品種間差をもたらす要因を解明することを目的とした.水稲品種「コシヒカリ」と籾数の異なる準同質遺伝子系統,および遺伝背景が近いにもかかわらず登熟期間の異なる「やまだわら」と「えみだわら」を用いて,籾数と籾重推移および登熟期間の関係を解析したところ,準同質遺伝子系統では籾数が増えても千粒重が減り,籾重増加期間や登熟期間に差はなかった.「やまだわら」と「えみだわら」では,両者の品種間差は籾数の差で説明できるようであった.しかし低窒素条件により籾数が減っても籾重増加期間と登熟期間は変わらなかった.以上から籾数が登熟期間の決定要因とならない場合があることが示された.一方で,穂ごとの解析では,黄化が開始している穂は籾重増加がほぼ完全に停止していた.また年次間差も考慮にいれると,登熟期間は籾重増加期間よりもむしろ,籾重の増加停止から成熟までの期間と相関があり,この期間も登熟期間の決定要因となりうることが示唆された.

収量予測・情報処理・環境
  • 境垣内 岳雄, 丸山 篤志, 鎌田 えりか, 末松 恵祐, 川田 ゆかり, 小林 晃, 甲斐 由美
    2024 年 93 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    苗を移植する慣行の挿苗栽培と比較して,種いもを直接,圃場に植付ける直播栽培ではカンショ生産に要する労力を削減できる.しかしながら,直播栽培では出芽までに時間を要するため生育初期に雑草害を受けやすい.このため,出芽日を把握して適切に除草作業を計画することが重要となる.本研究では,これまで知見のない直播栽培カンショの出芽予測の端緒とするため,有効積算地温に基づきカンショの出芽までの日数 (出芽日数) が予測できるかを検討した.試験ではカンショ7品種を用いて,2018年と2019年に計4作期で直播栽培して,日平均地温と出芽日を調査した.続いて,地温の有効温度の下限値 (8,10,12,15℃) と上限値 (20,22,24,26,28℃) を設けて,7品種の出芽まで有効積算地温を算出し,全品種を平均した出芽日数の実測値と予測値の差の二乗平均平方根誤差 (RMSE) が最小となる地温の下限値,上限値の組合せを検討した.この結果,下限値10℃,上限値24℃に設定したRMSEの平均値が2.48日で最小となった.次に, 栽培年の異なる独立データにより出芽日数の予測精度を検証した.直播栽培適性の高い3品種を用いて,2020年に3作期で直播栽培し,出芽日数の実測値と予測値を比較した.この結果,3品種,3作期のRMSEの平均値は3.01日となり,簡易な地温の測定に基づいた有効積算地温で,直播栽培したカンショ品種の出芽日数を3日程度の誤差で予測できることを示した.

研究・技術ノート
  • 中村 哲也, 浅見 秀則, 磐佐 まりな, 藤井 義晴, 大川 泰一郎
    2024 年 93 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    有機水稲作においては雑草防除に係る労力負担が非常に大きく,雑草害が主要な減収要因であることから省力・安定的な雑草防除技術の開発が求められている.本研究では,太陽光を動力としてGPSで水田内を無人航行する水田用自動抑草ロボット(以下,抑草ロボット)の雑草抑制効果および水稲収量への影響を2か年計 36地点の有機水稲圃場で検証した.抑草ロボットの導入により,生産者慣行の機械除草回数は平均で58%減少した.一方,抑草ロボット走行後の平均推定雑草乾物重は16.6 g m–2で,水稲の収量には影響しない程度の防除水準であった.抑草ロボットの防除効果は一年生雑草であるノビエやアゼナで高く,多年生雑草であるクログワイやオモダカで低くなる傾向であった.抑草ロボットの稼働期間が水稲移植直後から3週間程度であるため,発生期間が長い多年生雑草には効果が低く,多年生雑草の発生圃場では抑草ロボット引き上げ後に機械除草等の物理的な防除が必要であると考えられた.また,実証試験地の水稲平均収量は424 g m–2であり,生産者慣行と比較して平均10%の増収が確認された.以上より,抑草ロボットは除草労力を削減しつつ有機水稲作の収量を確保する新たな除草ツールとして有効であると考えられた.ただし,抑草ロボットが安定的に稼働するためには圃場水位を一定以上に保つ必要があり,圃場の均平化や用水の安定供給が導入条件として重要であった.今後は,抑草ロボットの雑草防除メカニズムや水稲収量の増加に寄与した要因を解析し,効果的な抑草ロボットの運用法や適用範囲の解明を目指す.

  • 福嶌 陽
    2024 年 93 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    携帯型NDVIセンサーを用いたNDVIの測定により,ダイズの生育の圃場内変異,およびその収量との関連を明らかにしようとした.タイズ品種「里のほほえみ」を用いて2021年と2022年に圃場試験を行った.いずれの年次も,出芽数が多い調査区は生育初期のNDVIが高かった.生育初期のNDVIが高い調査区は,いずれの年次も,開花期および子実肥大期前半の地上部乾物重が重い傾向が認められた.しかし,生育初期のNDVIと収量の間にはいずれの年次も有意な相関関係は認められなかった.登熟後期のNDVIを測定したところ,30の調査区の内の2調査区で枯れ上がりが早く,NDVIの測定が不可能となった.これら2調査区は収量が特に低いことはなかったが,百粒重は明らかに軽かった.以上から,ダイズ栽培においては,生育初期のNDVIの測定により子実肥大期前半までの生育量の圃場内変異をある程度推定できること,および登熟後期のNDVIの測定により登熟不良な区画を把握できる可能性が示唆された.

  • 丹野 和幸
    2024 年 93 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    主茎径を用いて,ダイズ品種「里のほほえみ」の乾物重を推定する手法を開発した.具体的には,主茎径を説明変数,個体あたり地上部乾物重を応答変数とし,6段階 (1:VC~V3,2:V4~V6,3:V7以降の栄養成長期,4:R1~R3,5:R4~R6,6:R7~R8) の発育相別に下に凸の二次式で回帰した.作期と栽植密度を変化させた (4~8月播種,6~38株/m2程度) 試験区の作期番号を傾きに対する変量効果として解析したが,変量効果の有無で精度はあまり変化しなかったため,作期によって主茎径と個体あたり地上部乾物重の関係が変化する程度は小さいと考えられた.そこで,変量効果を除去して詳細に発育相を分けて解析すると,各発育相によって差はあるものの,重量誤差11~37%で予測でき,推定式は幅広い条件下で適用可能と考えられた.また,発育相による推定式の傾きの変化は,茎の肥大成長に対するその他の器官成長の比を表していると考えられ,V7期以降に上昇し,R6期にピークとなりR7~R8期に減少した.

  • 中園 江, 黒瀬 義孝, 松山 宏美, 中川 博視
    2024 年 93 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    コムギの栽培管理上重要な発育段階である茎立期を予測することを目的として,低温要求性および日長反応性を考慮した3パラメータのモデル式(改変Weirモデル)と,水稲の発育予測式をコムギに応用した5パラメータのモデル式(堀江・中川モデル)の精度を比較した.検証には茨城県つくば市,三重県津市,広島県福山市および香川県善通寺市において2006年から2019年の間に栽培した農林61号」,「シロガネコムギ」(秋播性程度Ⅱ),「さとのそら」,「イワイノダイチ」(秋播性程度Ⅳ)の発育データを用いた.改変Weirモデルの低温要求性の大きさを表すパラメータは,品種の秋播性程度を反映していた.出芽から茎立期の予測精度(RMSE)は,4品種を平均すると改変Weirモデルと堀江・中川モデルのいずれも4.8日となり,「さとのそら」では改変Weirモデルで精度がやや向上した.パラメータ決定に必要な最小のデータ数は約15と算出され,データ数が増加すると精度は向上するが40以上になるとほとんど変化しなくなった.モデルの精度を高めるためには,データの数だけではなく,作期移動試験や地域連携試験等により,気温と日長の幅が広い条件下で得られたデータを使用してパラメータを決定することも重要であることが示された.

  • 石川 哲也, 内藤 貴通, 内藤 純子, 古渡 拳人, 吉永 悟志
    2024 年 93 巻 1 号 p. 57-66
    発行日: 2024/01/05
    公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    茨城県南部で大規模稲作を展開する農業生産法人 (以下,経営体と略記) において,2019年から2022年までの栽培管理情報を網羅的に収集し,収量の向上を目的とした作付品種構成の最適化について検討した.この経営体では,4年間で急速に圃場の集積を進め,業務委託部分を除いた作付面積は,2019年の41.8 haから,2022年には95.9 haまで拡大し,2019年と比較して移植作業日数は17日,収穫作業日数は16日,それぞれ多くなった.4年間継続して作付した基幹品種である「ヒメノモチ」,「あきたこまち」および「コシヒカリ」の他に,2019年に作付した2品種と,2020年以降に導入した7品種について,収量性や作業体系への適合性を検証した.収集した栽培管理情報と収量の解析に基づき,2019年は低収の1品種,2020年は2品種の作付を取りやめた.晩生で最後に収穫できる「あさひの夢」は作付を継続した.2021年以降に導入した品種は,適切な窒素施肥や病害虫防除などの栽培管理方法を設定したことから,いずれも収量は高かったが,「コシヒカリ」と収穫作業が競合した2品種と,稈が太くコンバインへの負荷が大きい1品種の作付を取りやめた.2021年に導入し,収穫作業が基幹品種と競合しなかった早生の「ちほみのり」と中生の「にじのきらめき」は,2022年に作付面積が拡大した.「あさひの夢」は,窒素追肥を取りやめる施肥法の改善により2022年に屑米重量比率が低下した.これらの見直しにより,2022年には基幹品種以外の作付面積が49.2 haと過半を占め,経営体全体の全刈り収量は,2019年の455 g m–2から2022年には556 g m–2に向上した.

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