従来,作物の生育診断に用いられてきた栄養指標値は,算出に必要な草丈,茎数および葉緑素計測定値の計測に多大な労力が必要である.省力的な生育診断手法を開発するため,水稲「にじのきらめき」において,携帯型分光器の測定値から植生指数を算出し,地上部乾物重や窒素吸収量の推定精度について検討した.植生指数のうち,赤色と近赤外の波長域を用いるNDVIとSRは生育量が大きくなるにつれて値が飽和する傾向が認められた.植生指数による地上部乾物重の推定精度は,幼穂形成期には緑色と近赤外の波長域を用いる正規化指数GNDVIが最も高く,出穂期にはレッドエッジと近赤外の波長域を用いる正規化指数NDREが最も高かった.窒素吸収量の推定精度は,幼穂形成期には緑色と近赤外の波長域を用いるCIgreenが最も高く,出穂期にはレッドエッジと近赤外の波長域を用いるCIred-edgeが最も高かった.また,同じ波長域を用いる場合では,正規化指数よりも2波長の比を用いる指数が窒素吸収量の推定に適していることが示唆された.よって,幼穂形成期にCIgreenを用いることによって栄養指標値と同等の精度で簡易に窒素吸収量を推定できることが示唆された.さらに,追肥の有無で区分すると幼穂形成期のCIgreenと総籾数との間に高い相関が認められた.これらの結果から,携帯型分光器により測定した幼穂形成期の植生指数は,栄養指標値と同様に,目標とする総籾数を確保するために必要な窒素追肥量の診断に利用できる可能性が示唆された.