日本作物学会紀事
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93 巻, 3 号
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研究論文
栽培
  • 羽根 沙苗, 本間 香貴, 白岩 立彦
    2024 年 93 巻 3 号 p. 179-186
    発行日: 2024/07/05
    公開日: 2024/08/10
    ジャーナル フリー

    気候温暖化により暖地におけるダイズ収量の低下が懸念されるが,晩生品種では生殖成長期間が遅れ,その期間に遭遇する気温が季節的に下がるために高温を回避でき,温度上昇の影響が小さくなる可能性がある.しかし,晩生品種においても温度上昇に対する収量の反応に品種間差が示唆されている.そこで,温暖地の主要品種である「フクユタカ」及び「丹波黒」を温度勾配温室内で栽培し,生育初期は外気温と同様,開花始期直前から子実肥大始期頃までに外気温追随型の温度勾配処理を施し,作物生理形質及び収量構成要素を調査した.処理期間中の平均気温は2014年は25.1~27.1℃,2015年は25.6~29.1℃であり,高温区と対照区で2014年は2.0℃,2015年は3.3℃の差を与えた.高温処理により収穫指数(HI)が低下し,その程度は「フクユタカ」よりも「丹波黒」で大きい傾向があった.HIの低下は,両品種ともに1莢粒数及び百粒重の低下と関連した.「丹波黒」においてのみ,高温処理により受精胚割合及び子実肥大始期から成熟期までの平均子実肥大速度が低下し,これが同品種のHI低下を大きくしていると考えられた.光合成速度 (Pn) は,高温処理期間終了後に高温区で低下した.以上より,ダイズ晩生品種では2~3℃の温度上昇によりHI及び光合成活性が低下すること,HIの低下程度に品種間差異が存在し,それは胚受精及び子実肥大が関係することが示唆された.

形態
  • 中尾 祥宏, 関山 恭代, 大野 智史
    2024 年 93 巻 3 号 p. 187-194
    発行日: 2024/07/05
    公開日: 2024/08/10
    ジャーナル フリー

    播種後のダイズが土壌の高水分条件に遭遇すると過剰な水分吸収に伴い発芽,出芽,及び初期生育が不良となる吸水障害が発生する.また,短時間の吸水によって子葉の膨潤が十分に進行していなくても発芽や出芽は不良となることが知られているがそのメカニズムは十分に明らかでない.本研究では吸水障害のメカニズムを明らかにするために,種子の吸水量や水分局在,吸水種子の形態の個体間差を明らかにすることを目的とした.また,吸水の特徴が発芽及び出芽に及ぼす影響も調査した.ダイズ品種の「里のほほえみ」を供試し10分間から90分間冠水した後,冠水を解除し発芽,幼根の伸長,及び出芽率を調べた.冠水処理中は種子の外観,吸水量,及びMRI画像を確認した.その結果,冠水直後に外観から通常吸水種子と過剰吸水種子に分類できた.さらに過剰吸水種子を2枚の子葉の間の接合部の閉じている種子 (CL種子) と開いている種子 (OP種子) に分類できた.10分間の冠水処理によって通常吸水種子,CL種子,及びOP種子の播種後4日目の正常個体率はそれぞれ98.3%,66.7%,及び20.0%となり有意差が認められ,播種後6日目の出芽率はそれぞれ93.3%,53.3%,及び23.3%となった.したがって,同品種,同ロットの種子群において種子の吸水量及び吸水種子の形態に広い個体間差が認められ,2枚の子葉間への水の侵入の有無が発芽及び出芽に影響を及ぼすことが示唆された.

収量予測・情報処理・環境
  • 西尾 善太, 三原 実, 秀島 好知, 広田 知良
    2024 年 93 巻 3 号 p. 195-208
    発行日: 2024/07/05
    公開日: 2024/08/10
    ジャーナル フリー

    2000年以降の北部九州のコムギの10 a当たり収量は,2007~08年に約500 kgであったが,2010~11年に約300 kgまで減少し,2021~22年は再び約500 kgに回復した.そこで,気象条件がコムギ収量に与える影響について 2000~2022年の23年間を対象として日単位の詳細な解析を行った.筑紫平野のコムギ収量を目的変数として重回帰分析を行った結果,12月10~21日および4月12~23日の降水量および2月17~3月1日の日照時間の合計3つの気象条件が5%水準で有意な説明変数として選択された.それぞれの標準偏回帰係数は,12月10~21日の降水量が–0.357,4月12~23日の降水量が–0.433,2月17~3月1日の日照時間が0.407で,自由度調整済みの重相関係数は0.826,決定係数は0.682であった.12月10~21日および4月12~23日の降水量はシンクサイズを制限しており,前者は穂数と1 m2当たり粒数,後者は千粒重を低下させていた. 2月17~3月1日の日照時間は,節間伸長が盛んな茎立期であるため,シンクおよびソースサイズの決定に関わるとみられた.北部九州のコムギで安定した多収を達成するには,12月と4月の2つの特定時期の降水によるシンクサイズの制限を回避することが重要である.

研究・技術ノート
  • 澤田 寛子, 寺崎 亮, 平内 央紀, 板谷 恭兵, 石川 哲也
    2024 年 93 巻 3 号 p. 209-216
    発行日: 2024/07/05
    公開日: 2024/08/10
    ジャーナル フリー

    従来,作物の生育診断に用いられてきた栄養指標値は,算出に必要な草丈,茎数および葉緑素計測定値の計測に多大な労力が必要である.省力的な生育診断手法を開発するため,水稲「にじのきらめき」において,携帯型分光器の測定値から植生指数を算出し,地上部乾物重や窒素吸収量の推定精度について検討した.植生指数のうち,赤色と近赤外の波長域を用いるNDVIとSRは生育量が大きくなるにつれて値が飽和する傾向が認められた.植生指数による地上部乾物重の推定精度は,幼穂形成期には緑色と近赤外の波長域を用いる正規化指数GNDVIが最も高く,出穂期にはレッドエッジと近赤外の波長域を用いる正規化指数NDREが最も高かった.窒素吸収量の推定精度は,幼穂形成期には緑色と近赤外の波長域を用いるCIgreenが最も高く,出穂期にはレッドエッジと近赤外の波長域を用いるCIred-edgeが最も高かった.また,同じ波長域を用いる場合では,正規化指数よりも2波長の比を用いる指数が窒素吸収量の推定に適していることが示唆された.よって,幼穂形成期にCIgreenを用いることによって栄養指標値と同等の精度で簡易に窒素吸収量を推定できることが示唆された.さらに,追肥の有無で区分すると幼穂形成期のCIgreenと総籾数との間に高い相関が認められた.これらの結果から,携帯型分光器により測定した幼穂形成期の植生指数は,栄養指標値と同様に,目標とする総籾数を確保するために必要な窒素追肥量の診断に利用できる可能性が示唆された.

  • 杉本 充, 羽根 沙苗, 栂森 勇輝
    2024 年 93 巻 3 号 p. 217-222
    発行日: 2024/07/05
    公開日: 2024/08/10
    ジャーナル フリー

    京都府育成の丹波黒ダイズ系エダマメ品種の機械収穫適性を向上させるため,2021~2022年の2年間,育苗用セルトレイ (トレイ) のサイズおよび育苗日数が下位着生莢の高さを左右する下位節間長に及ぼす影響を調査した.2021年は 「夏どり丹波黒2号」,「紫ずきん2号」,「紫ずきん3号」 および 「新丹波黒」 の4品種に,トレイ2水準 (128穴と200穴),育苗日数2水準 (10日間と14日間) の計3因子16区を設けて,調査結果を分散分析で解析した.移植時では,苗主茎長は因子の効果および交互作用の全てが有意であったが,下胚軸長は品種の効果のみが有意となった.収穫時では,第1節間長および第2節間長ともに品種および育苗日数の効果,品種と育苗日数の交互作用が有意となった.2022年は 「夏どり丹波黒2号」 および 「紫ずきん2号」 の2品種に,トレイと育苗日数の組み合わせを異にする育苗法4水準の計2因子8区を設けて分散分析で解析したところ,2021年と同様,育苗日数の延長により収穫時において第1節間長および第2節間長が有意に伸長した.一方,トレイの違いによる主茎への影響は育苗時のみに限られた.

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