西日本のコムギ栽培では,畝幅1.5~2 mの畝と畝間 (明渠) を設け,条間約0.3 mの条播きで播種する栽培体系が一般的となっている.この様式は,降雨が少ない地域の条間約0.2 mドリル播きに比べて,明渠に照射される光を十分に利用できず,種子の間隔が狭いため株間の光競合が起きやすいと考えられる.本研究では,明渠が占める面積を抑えつつ種子間の幅も広げるため,畝幅を4.5 mとした広畝に播種量を変えずに条数を倍にする密条薄播きを組み合わせた広畝密条薄播き栽培が「せときらら」の収量や品質を高められるか4作期にわたって検証した.広畝密条薄播き区 (広畝23条または24条区) は,過湿土壌による生育阻害が懸念されたが,4作期とも慣行畝区と同等以上の収量となり,2018/19年には慣行畝区に比べて約21%も増収した.収量が高まった原因は,慣行畝区に比べて穂揃い期から成熟期にかけての個体群成長速度が高かったためであった.広畝23条区は,成熟期の地上部窒素蓄積量が多かったため,収量が高まった場合でも子実タンパク質含有率が高く維持された.また,1~2作期目に広畝23条区は倒伏程度が低かったため,4作期目では倒伏リスクに関連する諸形質も測定した.その結果,広畝24条区は,第4葉抽出期から開花2週間後まで草丈が慣行畝区に比べて低く推移していた.開花2週間後には主茎と分げつのいずれでも節間1 cmあたり乾物重が重かった.広畝密条薄播き栽培は,西日本でコムギの収量と品質を高めつつ,倒伏リスクを低減するために有効な栽培体系であると考えられた.