2016~2020年の5年間に高知県の11地域で生産された酒米品種「吟の夢」の玄米とその栽培履歴を用いて,「吟の夢」玄米品質の地域間,年次間差の実態やその発生要因を検討した.地域間では,千粒重,整粒割合,心白発現率,検査等級,アルカリ崩壊性において有意な差が認められ,整粒割合,心白発現率,検査等級,アルカリ崩壊性では変動係数が10以上と比較的大きかった.年次間では,千粒重,整粒割合,蛋白質含有率,アルカリ崩壊性において有意な差が認められ,整粒割合,アルカリ崩壊性では変動係数が10以上であった.地域間,年次間ともに有意差が認められた玄米品質形質の最大値と最小値の差は,地域間,年次間それぞれにおいて,千粒重では1.5 g,1.2 g,整粒割合では32.5%,15.4%,アルカリ崩壊性では0.49,0.24であった.同様に,変動係数は,千粒重では1.9,2.2,整粒割合では14.5,10.1,アルカリ崩壊性では19.7,11.7であった.よって,千粒重は地域間差,年次間差が同程度,整粒割合,アルカリ崩壊性は年次間差より地域間差が大きいと判断された.また,地域間では,整粒割合は標高と正,登熟期間の平均気温および日射量と負,心白発現率は登熟期間の日射量と正,成熟期と負,検査等級は登熟期間の平均気温および日射量と正,標高と負,アルカリ崩壊性は標高,成熟期と正,登熟期間の平均気温および日射量と負の有意な相関関係を示した.以上より,「吟の夢」玄米品質の高位平準化に向けて,整粒割合,心白発現率,検査等級,アルカリ崩壊性の地域間差を小さくすることが第一に重要であると考えられた.また,整粒割合,心白発現率,検査等級,アルカリ崩壊性の地域間差には,標高や成熟期を介して登熟期間の平均気温や日射量が影響していることが推察されたため,各生産地域における適正な登熟期間の気象条件となる栽培法を提示する必要がある.