2025 年 94 巻 2 号 p. 148-158
岩手県北上市の農業生産法人が管理する中山間地コムギ圃場では,法人が独自に畦畔を切り崩して行う合筆による大区画化が進行し,作業の効率化が図られているが,土壌水分過剰および湿害が問題となっている.そこで,圃場内明渠,暗渠による生産性改善効果を評価するための現地実証試験を行った.圃場内明渠区2筆,暗渠区と無施工区各1筆を対象に,収量コンバインで収集したデータから算出した収量およびUnattended Aerial Vehicle(UAV)に搭載したマルチスペクトルカメラで得た画像から評価した生育を相対的に比較したところ,無施工区に比べて圃場内明渠区と暗渠区では収量は25~83%向上し,生育改善および収量向上が認められたことから,圃場内明渠および暗渠施工が有益な営農支援策である可能性が示唆された.対象とした高低差のある圃場を合筆した圃場においては,畦畔であった場所が合筆後に緩傾斜面となっており,数値表層モデル(Digital Surface Model: DSM)を用いた解析を行ったところ,土壌窒素肥沃度不足となる可能性がある畦畔跡や,湿害を助長する可能性がある窪地の位置が推定された.このように,収量コンバインとUAVリモートセンシングを併用することで,画像解析を中心とした作物生産性の解析や圃場構造の把握が可能であり,現地実証試験を行う際の省力的な評価方法として有効であると考えられた.今後は,圃場内の不均一な土壌理化学性や高低差などの生産阻害要因の最適な軽減方策を検討するとともに,他地域でも圃場内明渠,暗渠施工によって同様の効果が得られるかを確認するための広域展開を行っていく.