日本作物学会紀事
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94 巻, 2 号
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研究論文
栽培
  • 福嶌 陽
    2025 年94 巻2 号 p. 117-124
    発行日: 2025/04/05
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル フリー

    玄米の外観品質 (以下,品質) が優れる多収品種の「にじのきらめき」と普及品種「コシヒカリ」を2移植時期×3施肥法の条件で2年間栽培し,穂内位置別にみた玄米の成長および玄米横断面の形質という点から品質を比較した.「にじのきらめき」は「コシヒカリ」より,いずれの栽培条件においても品質が優れていた.すなわち,高温登熟条件下で弱勢籾の背白粒の発生が明らかに少なく,強勢籾の心白・腹白粒の発生も少なく,さらに,枝梗切除処理による心白粒の発生,葉身切除処理による乳白粒の発生が少なかった.これらのことから,「にじのきらめき」 は,高温条件下および同化産物の供給が過不足する条件下での品質の低下が少ないことが示された.その一因として,「にじのきらめき」は,いずれの穂内位置においても玄米の成長が穏やかに進むことが推察された.一方,高温登熟条件下では,玄米の背腹比が低くなったが,玄米横断面の形質と品質との因果関係は不明であった.これらの結果と前報の結果から,「にじのきらめき」が多収かつ高品質である要因として登熟期間が長いことを挙げた.

  • 水田 圭祐, 諸隈 正裕, 豊田 正範
    2025 年94 巻2 号 p. 125-134
    発行日: 2025/04/05
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル フリー

    生育診断とその結果をもとに窒素を可変的に追肥する施肥体系 (可変施肥) は,コムギの収量を高い水準で安定させるために有効であるが,窒素の追肥時期や量の違いが収量や収量構成要素におよぼす影響についての知見は少ない.本研究では,コムギの多収栽培に有効な穂肥重点施肥をベースとした際,茎数が不足している群落では出芽揃い期 (GS11) や第4葉抽出期 (GS14) に窒素の施肥量を変化させることでより茎数や穂数,収量が確保しやすくなるか検証した.播種量を半分にした疎植区は,GS11の茎数が66~82本 m–2と,標準区の約半分であった.疎植区の最高分げつ数は,2作期ともGS11における窒素施肥量に関係なく同程度で,2021/22年ではGS14における窒素追肥の有無に関係なく約350本 m–2であった.最高分げつ数が増えなかったのは,節間伸長開始期までに地上部に蓄積された窒素量が施肥量の10%以下と少なかったためであった.疎植区の収量は,2021/22年ではGS11やGS14の窒素施肥量に関係なく標準区と同等の445 g m–2であった.2022/23年では,GS11に窒素を施肥しなかった区で最も高い692 g m–2となり,GS11の施肥量が多くなるほど低くなっていった.成熟期の地上部窒素蓄積量も収量と同様に2021/22年ではGS11とGS14の窒素施肥量に関係なく約7 g m–2であり,2022/23年ではGS11の窒素施肥量が多くなるほど少なかった.本研究を行った作期は分げつが増えにくい暖冬年または寡雨年であったが,GS14だけでなくGS11にも窒素を施肥する意義が薄かった.「さぬきの夢2009」で穂肥重点施肥をベースにする際には,確実な苗立ち数の確保が収量の高位安定化に重要であると考えられた.

品種・遺伝資源
  • 西羽 瑞希, 千装 公樹, 山崎 将紀, 安達 俊輔, 大川 泰一郎
    2025 年94 巻2 号 p. 135-147
    発行日: 2025/04/05
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル フリー

    暴風雨を伴う台風は,登熟期の水稲を倒伏させ,収量の減少と品質の低下を引き起こす.これまでは,主に草丈を低くすることで倒伏抵抗性が改良されてきたが,近年は台風の大型化により,短稈品種であっても倒伏することが問題となっている.そこで,本研究では,近年育成された水稲品種の倒伏抵抗性に関わる強稈関連形質を比較し,とくに太稈化について優良ハプロタイプとその組合せを比較検討した.その結果,挫折型倒伏抵抗性の指標である稈の挫折時モーメントには品種間で大きな差異がみられた.その要因を太さの指標である断面係数と稈の折れにくさの指標である曲げ応力に分けて検討したところ,飼料用品種は断面係数が大きく,良食味品種は断面係数が小さく曲げ応力が高いことが高い挫折型倒伏抵抗性に関わっていた.太稈化に関わる遺伝子のハプロタイプと断面係数との関係について検討した結果,断面係数が上位の品種はインディカ品種や熱帯ジャポニカ品種由来の優良ハプロタイプを複数持ち合わせている一方で,わが国のジャポニカの良食味品種の多くはこれらの優良ハプロタイプをほとんど持たないことが明らかになった.強稈質の品種間差異をもたらす要因を明らかにするため,曲げ応力に関わる皮層繊維組織の形態や細胞壁構成成分に着目し「ヒノヒカリ」,「コシヒカリ」,「あきだわら」を比較した結果,3品種間の曲げ応力の差異には皮層繊維組織の厚さではなくヘミセルロース密度やデンプン密度が寄与していることが示唆された.

研究・技術ノート
  • 山本 修平, 久保 堅司, 藤村 恵人, 田中 惣士, 冠 秀昭, 宮路 広武
    2025 年94 巻2 号 p. 148-158
    発行日: 2025/04/05
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル フリー

    岩手県北上市の農業生産法人が管理する中山間地コムギ圃場では,法人が独自に畦畔を切り崩して行う合筆による大区画化が進行し,作業の効率化が図られているが,土壌水分過剰および湿害が問題となっている.そこで,圃場内明渠,暗渠による生産性改善効果を評価するための現地実証試験を行った.圃場内明渠区2筆,暗渠区と無施工区各1筆を対象に,収量コンバインで収集したデータから算出した収量およびUnattended Aerial Vehicle(UAV)に搭載したマルチスペクトルカメラで得た画像から評価した生育を相対的に比較したところ,無施工区に比べて圃場内明渠区と暗渠区では収量は25~83%向上し,生育改善および収量向上が認められたことから,圃場内明渠および暗渠施工が有益な営農支援策である可能性が示唆された.対象とした高低差のある圃場を合筆した圃場においては,畦畔であった場所が合筆後に緩傾斜面となっており,数値表層モデル(Digital Surface Model: DSM)を用いた解析を行ったところ,土壌窒素肥沃度不足となる可能性がある畦畔跡や,湿害を助長する可能性がある窪地の位置が推定された.このように,収量コンバインとUAVリモートセンシングを併用することで,画像解析を中心とした作物生産性の解析や圃場構造の把握が可能であり,現地実証試験を行う際の省力的な評価方法として有効であると考えられた.今後は,圃場内の不均一な土壌理化学性や高低差などの生産阻害要因の最適な軽減方策を検討するとともに,他地域でも圃場内明渠,暗渠施工によって同様の効果が得られるかを確認するための広域展開を行っていく.

  • 岡村 昌樹, 荒井(三王) 裕見子, 大角 壮弘
    2025 年94 巻2 号 p. 159-168
    発行日: 2025/04/05
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル フリー

    北陸地域において,移植時期の作業分散を可能にする4月20日頃の極端な早植栽培をインド型および日本型多収品種に適応可能であるか検証するため,乾物重の推移と収量を早植栽培と普通植栽培で比較した.まず播種後15日の苗を用いた低温感受性試験において,供試したインド型多収品種「北陸193号」と「オオナリ」が日本型多収品種「あきだわら」と比較し,低温に弱いことを確認した.早植栽培における移植後3日間の平均気温は試験を行った4か年では7.8から17.3℃であり,極めて低い年もあった.そのため早植栽培では,インド型品種において,移植直後に全体に黄化し,下位葉や葉の先端を中心に葉が枯死した.この症状は気温の上昇とともに回復したものの,乾物重の推移から推定される,移植から成長の立ち上がりまでの期間はいずれの品種とも早植栽培の方が長かった.しかし,到穂日数も長かったため,成長の立ち上がりから出穂までの期間で表される出穂までの実質的な生育期間に作期間差はなかった.早植栽培では,暦日の出穂日は普通植栽培より早く,登熟期間の日射量は増加傾向にあった.結果として,全ての年次,品種において,平均精玄米収量が早植栽培により低くなることはなく,「北陸193号」ではむしろ高くなっていた.よってこの早植栽培技術は春先の作業競合を緩和できる有効な栽培技術の1つである可能性が示された.

  • 松山 宏美, 清水 浩晶, 高橋 飛鳥, 小島 久代, 塔野岡 卓司
    2025 年94 巻2 号 p. 169-176
    発行日: 2025/04/05
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル フリー

    六条オオムギ品種「カシマムギ」で多発する成熟期後の稈の折損は,多発すると刈り取りが困難となり,収穫ロスが増大する.本研究では,成熟後稈折損の発生の様相を調査するとともに,折損しやすい「カシマムギ」の稈と,同じく麦茶用の六条オオムギ品種で成熟後の稈折損が発生しにくい「カシマゴール」の稈の特性を比較した.成熟後稈折損が発生した「カシマムギ」圃場では,第2節間で折れている稈も認められたものの,大半の稈が第1節間で折れており,第1節間の下部 (節との接続部) と第1節間の上部 (穂首節の下) が頻発部位と考えられた.「カシマゴール」は「カシマムギ」より,第1節間の断面係数が小さいが曲げ応力が大きく,また,表皮細胞層が厚かった.さらに,登熟期間における第1節間のリグニン含有率が高く,含水率の低下が遅く,乾物減少量が小さく,成熟期まで曲げ応力が維持され,挫折時モーメントが大きかった.このことが,「カシマゴール」の成熟後稈折損への耐性の要因であると推測された.

  • 加藤 雅宣, 池上 勝
    2025 年94 巻2 号 p. 177-188
    発行日: 2025/04/05
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル フリー

    酒米品種「山田錦」の幼穂形成期における生育量(草丈(cm)×茎数(本m–2)×SPAD値×10–4)と穂肥施用量を診断するスマートフォンアプリで取得する植被率を対象にして,それらの生育診断指標としての適用性を分散分析,相関分析等により比較検討した.移植期を早期,晩期に分けて2017年から2019年の3 年間6作期にわたり,基肥量4水準の試験区を設置して調査を行った.基肥量別・作期別の幼穂形成期の生育調査の結果は,すべての調査項目において施用量が多くなるほど増加傾向を示し,地上部窒素含量を除き作期間差の存在が確認された.また,生育量及びそれを構成する草丈,茎数,SPAD値は基肥量と作期との間に交互作用が検出されたが,植被率と地上部乾物重量及び地上部窒素含量については検出されなかった.植被率は生育量と同様に地上部窒素含量との間に正の相関を確認されるとともに,生育量との間にも強い正の相関が確認された.以上の結果,植被率は「山田錦」の生育診断の指標として生育量とほぼ同等であると考えられた.加えて,植被率はスマートフォンによる撮影で容易に取得でき,調査作業の効率化が図れることから,有望な指標であると結論付けられる.

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